「法令遵守」が日本を滅ぼす/郷原信郎
日本の場合、法令と社会的要請との間でしばしば乖離・ズレが生じます。ズレが生じているのに、企業が法令規則の方ばかり見て、その背後にどんな社会的要請があるかということを考えないで対応すると、法令は遵守しているけれども社会的要請には反しているということが生じるわけです。
その典型的な例が、JR福知山線の脱線事故の際に、被害者の家族が医療機関に肉親の安否を問い合わせたのに対して、医療機関側が個人情報保護法を楯にとって回答を拒絶したという問題です。
あの時、多くの医療機関の担当者の目の前には、「個人情報保護法マニュアル」があったのでしょう。そこには、個人情報に当たる医療情報は他人に回答してはいけないと書いてあったので、その通りに対応し回答を拒絶したのです。担当者には「法令遵守」ということばかりが頭にあって、法の背後にある社会的要請など見えていなかったのです。(P101)
法令の背後にある社会的要請に目を向けるべきであり、法令遵守ばかりを近視眼的にみたのでは、企業は社会的要請に応えられないと著者は言う。
東京地検特捜部等、法令を守らせる側に長年立っていた著者の言葉だけに、本質をついている。
個人情報保護法も、本来は「個人情報を大切に扱うべきである」という社会的要請から制定された法令であるにもかかわらず、この法令だけが一人歩きしているような気がする。
この法令によって企業や個人の自由な活動が必要以上に阻害されている状況がいたるところに見られる。
法令はもちろん守るべきだろうが、大切なことは、細かい条文がどうなっているかということを考える前に、人間としての常識に基づいて行動するということではないだろうか。
そうすれば、社会的要請にも応えることができるであろう。
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