人材論/樋口廣太郎
先見性のあるリーダーとは、別の言葉でいえば、「夢」を語れるリーダーということです。どんな逆境にいても、夢さえ持っていれば人は前向きに生きていくことができます。
戦後の日本人が、ひどん貧しさにもかかわらず旺盛なバイタリティを持って働き、世界史の中でも類を見ないほどの急速な経済成長を達成できたのも、いつか必ず欧米に追いついて豊かな暮らしをしたい、いや、必ずできるはずだ、という夢を胸に抱いていたからにはほかなりません。
私がアサヒビールで最初にやらなければいけなかったのも、まさに「夢」を語ることでした。私がアサヒの社長に就任したのは、1986年のこと。
当時は、ビール業界そのものがマイナス5パーセントという戦後最大の落ち込みを記録していた時期で、その中でもアサヒビールは年々シェアを落とし続け、85年には一ケタ台(9.6パーセント)まで落ち込んでいました。世の中がバブルを迎えようとしているとき、すでにアサヒビールはどん底とも言える逆境に直面していたわけです。
でも、そんな状態だからこそ、語る夢は大きければ大きいほどいい。だから私は、「15年でキリンビールに追いつき追い越そう」と言ったのです。(P70~72)
リーダーは「夢」を語るべきである。
そして、今のリーダーはあまりにも夢を語らなくなってしまっている。
確かに今、多くの企業が危機に局面している。
円高、株価下落、デフレ、少子化、等々・・・
悪い材料はいくらでもある。
しかし、現実はどんなに厳しくても、リーダーの語る夢によって、人は勇気づけられ、希望を持って目の前の仕事に取り組めるようになる。
樋口氏がアサヒビールの社長に就任した当時、状況としては最悪だった。
もはや存続を危ぶまれていたアサヒビール、
そんな中で「15年でキリンビールに追いつき追い越す」というのは夢物語であったろう。
しかし、その夢を語れるかどうかが、優れたリーダーになれるかどうかの分岐点だと思う。
当時のアサヒビールの置かれていた状況から、これと同じような逆境に置かれている企業のリーダーがやるべきことが見えて来る。
リーダーはある意味、リアリストである必要がある。
やはり現実はしっかりと見据える必要がある。
しかし、現実を見据えた上で、リーダーは「夢」を語るべきである。
政治家であっても企業のトップであっても、今、「夢」を語っているリーダーはどの位いるのだろう。
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