もうきみには頼まない 石坂泰三の世界/城山三郎
最初は会長にということでの東芝入りであったが、金融筋の強い要請もあり、石坂は社長のポストに落ち着いた。
そのことが内定すると、石坂はまず労組事務所へ出かけて行った。
組合側はおどろいた。役員といえば部屋にカギを掛け、宿所も転々として雲隠れしている存在であった。それが新役員、それも新社長が自ら組合事務所へやってきたのである。迎えた東芝連合労組委員長石川忠延の証言を、武石和風『堂々たる人』は次のように紹介している。
「ある日、見知らぬ人が一人のこのこ汚い労組事務所にきた。“近く社長になる石坂です”と、いきなりいう。私をはじめ居合わせた幹部一同、どぎもを抜かした。まだ、社長含みのただの取締役であった。“この会社の再建が私の仕事です。ざっくばらんに話し合いましょう。いずれよろしく願います”と言って去った」
労組側はただおどろくばかりで、奇襲や先制攻撃を受けたという感じは持たなかった。
もちろん、石坂にその気はなかったし、逆に労組に媚びる思いもなかった。新社長として取り組むべき第一の課題が労働問題である以上、その相手にまず会っておくべきである。それは、石坂にとって川の流れに身を任せるのと同様のごく自然な行動であった。思惑などにとらわれず、素直に。素直であるべきときは素直に。石坂の大きな体が動き出した。(P129~130)
“虎穴に入らずんば、虎子を得ず”という諺がある。
虎の子を得ようと思えば、虎の穴に入っていく必要がある。
同様に、何かを得るときは、それなりのリスクはつきものということ。
行動もせず、リスクも負わずに、何かを得ることはできない。
至極、当たり前のことなのだが、
その通りに実行できる人は少ない。
東芝は当時、大労働争議のため労使が激突し倒産の危機にあった。
役員といえば、組合員との接触を避け、
部屋にカギをかけ、宿を転々とし、雲隠れしている状態であった。
そのような状況で石坂に次期社長就任の声がかかった。
あえて火中の栗を拾った形となった石坂は、真正面から組合と交渉し、
6,000人を人員整理し、東芝再建に成功する。
このエピソードから学べることは、
“逃げるな!”ということ。
逃げれば逃げるほど、危機は追いかけて来る、
リスクに真正面から立ち向かってこそ、道は開ける、
あらゆる事柄に共通して言えることではないだろうか。
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