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2011年5月15日 (日)

系列/清水一行

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 それにしても昔はよかったと茂哉はつぶやいた。昔はなどと言うと年寄り臭かったが、71歳の自分は紛れもなく年寄りなんだなと思う。
 昔は工場をやっていて物を売る喜びと苦しさ、物を売るための製品づくりの喜びと苦しみ、会社の将来に対する期待と不安、この両方を仕事のなかで味わうことで、会社の人間はみんな一つになって働いた。
 ところがある時を境にして東京自動車の系列に組み込まれ、お世話になるようになってからは、一番かんじんな物を売る喜び、物をつくる喜びがどこかへ消え失せてしまった。確かに東京自動車の系列部品メーカーになり、東京自動車の仕事をメインにしてきたからこそ、今日の大成照明器がある。
 だが東京自動車の頼り切ってやってくるうちに、物を売る苦しさ、物をつくる苦しさを誰も味わわなくなってしまった。
 残ったのは一括して製品を買ってくれる、東京自動車への依頼心だけになってしまったのである。これでは独立した企業ではなく、東京自動車の一事業部にしか過ぎない。

この小説は年商三兆円の日本を代表する自動車メーカー東京自動車とその典型的系列メーカー大成照明器との間の、経営権をめぐっての激しい攻防戦が描かれている。

ある日、東京自動車の系列会社、大成照明器のオーナー社長・浜岡茂哉は、一方的に社長交代を宣告される。

次期社長に自分たちの息のかかった人間を送り込むことにより、経営権を奪い、完全な管理下に置こうというのだ。

また、その為にありとあらゆる圧力をかけてくる。

そして水面下で繰り広げられる激しい攻防。

ここで考えさせられたのは、「系列ってなんだろうか」ということ。

そもそも系列というシステムは日本にしかない。

日本独自の産業体制を表す言葉として、「系列」はそのまま海外においても“KEIRETSU”と表現されている。

大企業にとっては景気変動の下支え、つまりクッション。

円高になれば、真っ先にコストダウンの圧力がかかるのが系列会社である。

一方、系列会社にとっては、一括して製品を買ってくれる安定した供給先。

大企業が売上を伸ばせば、系列会社も一緒に売上を伸ばせる。

一企業と一企業との関係は、本来対等であるはずだが、ここには圧倒的な力関係が存在する。

しかし、怖いのは、系列会社であり続けることによって培われる風土ではないだろうか。

自分たちで苦労して製品を作り売ろうしなくても、大量に買ってくれる大企業があるという関係が長く続くと、もはやそのような能力も伸ばされず、人材もいなくなってしまう。

ある種のゆでガエル状態、これが一番怖い。

実は、自分自身が今、関与している会社の一つが、まさにこのような状態になっている。

売上の半分以上が、あるひとつの企業に集中している。

このような企業をなんとか変えようと試みているのだが、正直骨が折れる。

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