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2011年5月30日 (月)

信長の棺(上)/加藤廣

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 新しい隠居所に移ったら、今度こそ偸安を貧るまい。ひたすら信長さまの伝記の執筆に打ち込むとしよう。この五つの木箱にまつわる信長さまのご本心も、その中で洗いざらいぶちまけたい。皆、それには驚愕するだろう。歴史の叙述が変わるに違いない。
 そうだ!そこには、本能寺で亡くなった信長さまのご遺骸が、どこに消えたのか、この謎解きも是非加えなければならない。誰もが不思議がるくせに、誰も首を傾げるだけで、それ以上は触れようとしない。これも二重の不思議だった。今、考えても悲しみと怒りがこみ上げてくる。
 牛一の怒りの矛先にいつも浮かぶのが太閤秀吉である。(中略)
 以後、豊臣秀吉が天下を取ってからは、信長さまのご遺骨の行方は一切人々の口の端に上らなくなった。既に終わったこと、今さら言い出すのは、あれほど立派な葬儀をされた太閤様に御無礼ではないか。誰もが太閤の威風を恐れ、その鼻息を窺った。
(だが、俺には関係ない。信長さまのご遺骨の行方を探り出すのは、俺に残された最後の使命だ。それを果たすまでは、絶対に死なぬ!信長さまのためにも・・・・・)
 心に誓うと、思い余って牛一は働突した。その涙は、書庫発掘で汚れた顔一面の泥を洗い流し、止まるところがなかった。(P104~106)

本能寺の変後、信長の遺体はどこへ消えたのか。

日本史最大の謎に挑んだ歴史ミステリーである。

この小説の主人公は太田牛一、「信長公記」を著した実在の人物である。

信長の家臣太田牛一は本能寺の変の直後、生前の命令に従うべく西へ向かうも佐久間に捕らわれてしまう。

その後秀吉に、信長の伝記を執筆することを条件に牛一は助け出される。

助け出された牛一は、信長の伝記を執筆する傍ら、信長の遺体の行方を捜し始める・・・

という流れで物語は進んでいく。

実は、この小説を読んでいて、物語の内容とは別の面で考えさせられた。

それは、一生涯の仕事を持つことの意味である。

牛一は、86歳で亡くなっている。

当時としては、大変な高齢である。

どうしてこんなに長生きできたのか。

その一因は、生涯をかけてやり遂げたい仕事があったからではなかったか。

「信長さまのご遺骨の行方を探り出すのは、俺に残された最後の使命だ。それを果たすまでは、絶対に死なぬ!」

このような思いで生き抜こうと決意した牛一。

太田牛一にとって、信長の伝記を書くことが真にライフワークであったのだろう。

そう言えば、加藤廣氏も、この本を著したのは75歳の頃、

大変な高齢での作家デビューである。

この後、加藤氏はこの本と合わせ、本能寺3部作を出している。

ライフワークを持てる人は幸せだ。

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