« 組織を活性化する技術/名倉広明 | トップページ | ワーキングプア/門倉貴史 »

2011年5月 6日 (金)

野村ノート/野村克也

A9rabfe

 江夏は南海移籍1年目は5勝しかしていない。ボールを受けていても、もうかつての快速球なんて微塵も感じることがなく、投球術でごまかしているだけだった。
 あるとき、「おまえ、プロに入ってからでもいい、ピッチャーをやり始めてからでもいい、ボールより重いもんもつたことあるのか?」と聞いたら「ない」と返ってきた。
江夏クラスになると荷物から何から全部裏方さんがもってくれ、「左手でもつのはマージャンのパイぐらいだなあ」と冗談を返された。
 だからこういった。
「マージャンのパイなんてボールより軽いじゃないか。おれにだまされたと思って、いうとおりにやってみんか」と。それで腕立て伏せをやらせた。
 当時のメッツのエース、トム・シーバーがひじを壊したとき、医者に行っても治らなかったのが腕立て伏せをやったらよくなったという記事が新聞に出ていた。だからといって、記事で読んだだけのことを無責任に押しつけたわけではない。実は私もその数年前にひじを痛め、その記事を信じて毎日腕立て伏せに取り組んだことがあった。
 そうしたら痛みが消えたという経験があったのだ。
 ひじを痛めるときはだいたいひじの内側だ。外側は鍛える機会はあるのだが、内側となるとなかなか筋肉自体使うことがない。しかも当時は重たいものをもってはいけない、ウエイトトレーニングなんかもってのほかという時代だった。
 私という教材がすでにあったため、それを話してからは江夏は必死に腕立て伏せをし始めた。
阪神担当の記者が来て、「信じられない。どういうふうに江夏を説得したんですか」と驚くから、「説得なんかしてないよ。おれがやって治ったから、おまえもやってみんかといっただけだ」と話したのだが、みんな阪神時代のぐうたらな江夏を知っているから、何かいって江夏をいいくるめたんだろうと決めつけ、誰も私の説明を信じなかった。
 南海に来て2年目の田辺キャンプ初日、キャッチボールをやっていると彼がすごい笑顔になった。「キャッチボールして痛くないのはもう何年かぶりだ」と。(P220~222)

野村監督のもと、多くの選手が復活したことから、「野村再生工場」とよく言われた。

どうしてそれが可能だったのか、

それは自分の体験と理論に裏打ちされた言葉を持っていたから、ということができる。

自分の体験だけでは弱いし、理論だけでも弱い。双方が必要だ。

特に自分の成功体験を人に押しつけるのは、有害ですらある。

なぜならそのことが間違っていたり、迷信であったりする可能性があるからだ。

たとえば、私が高校生の時代、サッカーをやっていたのだが、様々な迷信があったことを覚えている。

「試合中や練習中は水を飲むな」とか、「サッカー選手は水泳をやってはいけない」とか、

今考えると、全て迷信である。

今、スポーツ選手は、水分補給の重要性を認識しているし、水泳もメニューに積極的に取り入れている。

だから、自分の体験だけでは弱いのである。

かといって、理論だけでは説得力がない。

かつての江夏のようなプライドの固まりのような選手に、理論だけを説いても動きはしないだろう。

やはり、自らの体験と理論に裏打ちされた言葉、これが必要だということであり、これはビジネスの世界でも同様のことが言える。

会社で上司が部下を動かそうとするとき、この点に留意すべきだろう。

« 組織を活性化する技術/名倉広明 | トップページ | ワーキングプア/門倉貴史 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 野村ノート/野村克也:

« 組織を活性化する技術/名倉広明 | トップページ | ワーキングプア/門倉貴史 »