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2011年5月31日 (火)

信長の棺(下)/加藤廣

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 「権兵衛殿」
 牛一は、ゆっくりと一語、一語噛みしめるように言った。
 「ここまでで、遺骨探しのご案内は十分でござる。権兵衛殿のお気持ち、ようわかった、嬉しい。だがその場所が特定できないのは、むしろ天慮かも知れぬ」
 「天慮?と仰せか」
 権兵衛は、不思議そうな顔で牛一を見た。
 「さよう天慮、天の配剤でござろう。御不在の間に一度は、こうも考えました。たとえ東の線は分からずとも、吉祥草の線上を、真っすぐに、どこまでも掘り下げ、なんとしても信長さまのご遺骨に辿り着きたい。この胸に、信長さまのご遺骨を、しかと抱き締めて差し上げたいと。しかし、不思議ですな。その時、ふいに一陣の風が、拙者の頬をよぎりました。その風の中で、拙者、信長さまの声を、しかと聞いた気がいたしましたのじゃ。『又介、もうよい』と。このままでよいのでございますかと、お訊ねしますと、いつものように『くどい』の一言。(中略)
 牛一は、空を見上げた。
 (これでよろしゅうございますな)
 雲一つない空の信長さまに向かって、牛一は心の中で叫んだ。
 信長さまは領いてくれた。
 (これで、お役御免ですな)
 もう一度叫ぶと、今度は、信長さまが白い歯を見せて笑われた気がした。(P296~298)

信長の遺体の行方を追っていく牛一、

最後には、本能寺から南蛮寺への抜け穴の存在や秀吉は山の民出身であったということ、

抜け穴を秀吉が埋めたことが原因で信長が死んだというなどを知らされる。

結局、信長の遺骨は見つからなかった。

この物語の締めくくりとしては、何となく拍子抜けといった感がある。

しかし、牛一には自分の成し遂げたことに対してのある種の満足感が漂っているような気がする。

自分のライフワークとして取り組んだものが、最後、望んだ結果が得られなかったとき、

人はそれをどのように自分の中で受け入れるのか。

牛一の場合は、信長と空想とも妄想とも取れるような会話をすることによって、自分の中で区切りをつける。

結局、結果云々ではなく、自分の人生のある時期、一つのことに打ち込み夢中になれたことに価値があったことに気づいたのではないだろうか。

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