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2011年5月16日 (月)

質問力/斉藤孝

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蓮實: あの広場の雪は現実の雪なのですか。
アンゲロプロス: 本物の雪であることは確かなんですが、撮影当日に降ったものではありません。あの地方には雪がなかったので、雪のある山岳地帯から六十台のトラックを使って運ばせたものです(笑)。
蓮實: 六十台もの!
アンゲロプロス: それを三十人の人間を使って広場に敷きつめたのです。
蓮實: 予算の大半が六十台のトラックに消えてゆく(笑)。
アンゲロプロス: 私の映画はいつでもそんなふうにして撮られているのです。たとえば、きのう、ヤングシネマの方の審査員として来日しているジョージ・ミラーに話したことですが、私は、天候が気に入らなければ、一カ月だってキャメラをまわしません。『シテール島への船出』のときなど、ロケ地で一カ月間曇りの日がなかった。私はどうしても曇天が必要でしたから、その間天候が悪化するのを待つんだといったのですが、あのオーストラリアの監督、本気にしていなかったようです。でも、本物の雪が必要なら、トラック何十台であろうと運ばせなければ気がすまない。ジョージ・ミラーは、自分があなたのプロデューサーでなかった幸福を噛みしめるといっていましたがね(笑)。(P135~136
)

上記は仏文学者で映画批評家の蓮實重彦がギリシアの映画監督テオ・アンゲロプロスにインタビューしたもの。

蓮實氏は「あの広場の雪は現実の雪なのですか」と質問する。

この質問は素朴に見えるが、考えてみると全く素朴ではない。

普通の人は、映画の中であれだけの雪を見ると本物の雪としか思わない。

だが映画に詳しい蓮實氏は、本物を使わないこともあるのだと知っているのだ。

たとえば、黒澤明が『羅生門』で土砂降りの場面を撮影した際、モノクロームの画面では普通の水をたくさん撒いても土砂降りに見えないので、墨汁を水の中に混ぜたという。

そして、蓮實が「現実の雪なんですか」という質問をすることによってアンゲロプロスの話そのものが生き生きとしたものに変わっていく。

映画監督の創作上の重要な秘密やこだわりを自ら進んで語るようになる。

この質問を機に、会話に奥行きや広がりが出てくる。

良い質問とはこのようなものなのだろう。

逆に、このことから、この世の中にくだらない質問があふれているという現実も見えてくる。

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