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2011年6月 2日 (木)

不撓不屈(上)/高杉良

A9rc414

 11時ちようどに、飯塚と田中は訟務官室で金子訟務官の前に立った。田中に金子を紹介され、飯塚は低頭した。
 「飯塚と申します。お忙しいところをお時間を割いていただきまして恐縮いたしております」
 飯塚が差し出した名刺を、金子は見もせずにデスクに放り投げた。むろん、飯塚は金子の名刺をもらえなかった。
 「いろいろご心配、ご迷惑をおかけしまして申し訳ございません」
 金子は、うすら笑いを浮かべて、座ったまま、飯塚を見上げていたが、いきなり斬りつけるように浴びせかけた。
 「いくら、ご心配をかけました、ご迷惑をかけましたと言ったって、口先だけじゃ、もう駄目だ。われわれはなぁ、日の丸を背負ってるんだよ。あんたが抵抗するんなら、二年でも三年でも締め上げてやるから、覚悟するんだな!だいたい、あんたがた税理士は、われわれが食わしてやってるんじゃねえか。あんた、外車なんか乗り回してるんだってなぁ。あんたは雲の上にいるから分からんらしいが、あんたのとこの職員は悪いことしてるぞ。“別段賞与”も“旅費日当”も全部脱税だ!」
 ヤクザ顔負けの乱暴な言葉遣いだ。
 飯塚は度肝を抜かれ、立ち尽くしていた。
 「いいか、よく聞けよ。二件の税務訴訟を直ちに取り下げろ!“別段賞与”を三か年遡って、修正申告させるんだ。約六百社の得意先全部の“旅費日当”も三か年遡って修正申告させろ。飯塚事務所の職員の不正行為を自ら摘発して、その修正計画書を出せ。期限は十月十日とする」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「おい!聞いてるのか!」
 「はい」
 「四項目すべてを満たせば、上級者に頼んでなるべく軽い処分で済ませるように取り計らってやるよ」
 金子はうそぶくように言うなり、椅子を回して、飯塚に背中を向けた。(P62~63)

TKC設立者、飯塚毅の税務当局との戦いを描いた小説。

税理士・飯塚毅は、国税当局の誤った法解釈に抗して訴訟を起こす。

直後、飯塚は税務当局から呼び出される。

金子訟務官の態度はいかにも横暴であり、国家権力をバックに傲慢不遜な姿勢に始終している。

この後、当局は、顧客に嫌がらせの税務調査を開始し、顧問契約解消を迫ることで飯塚を“兵糧攻め”にする。

さらにマスコミへの情報操作で揺さぶりをかける。

そして遂に脱税事件をでっち上げて4人の事務所員を逮捕、当局の卑劣な攻撃はピークに達する。

国家権力というものは、ここまでやるのか。

このような態度や行動の中に、官僚が国民のことをどのように思っているのか、その本心が見えてくる。

明らかに国民を自分たちより一段下に見ている。

国民は官僚に黙って従っていればいい、もし逆らいでもしたらとんでもないことになるぞ、という態度。

これは間違ったエリート意識である。

改革が進まないはずである。

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