労働貴族/高杉良
三十年前、全自・日産分会益田組合長は、「企業は消えても組織は残る」と豪語し、ありとあらゆる生産非協力と経営妨害を闘争手段に日産を存亡の縁にまで追いこみました。組合が生産現場を管理し、ラインスピードは益田組合長の意のままでありました。それから三十年。今、塩路会長がやっていることは、まさに益田組合長が三十年前にやったことと同じではありませんか!
日産は塩路会長が一人で作ってきた会社ではありません。われわれや皆さんが一生懸命努力して作ってきた会社ではありませんか。たった一人の労働貴族の権力欲のために、六万社員の日産自動車が没落の道を歩むようなことを絶対許してはなりません。
「錆は鉄より生じてやがて鉄そのものを亡ぼす」といいます。日産という企業内に生じた塩路会長という鉄サビは、われわれ日産人が除去しなければ、誰も取り除いてはくれないのです。そのことを肝に銘じて、明日から、生産現場に向おうではありませんか!(P184~185)
上記は組合員に郵送された「日産の働く仲間に心から訴える」という文書の一部。
同じ組合に属する一部の社員たちが書いたと見られ、労連本部の指示で、労連会長を誹謗する悪質な怪文書として回収され、焚書に付されたという。
組合員が組合の会長を訴える、よほどのことがなければこんなことは起こらない。
それほど、当時の塩路氏の言動は目に余るものがあった。
この本は、日産自動車の巨大労組、自動車労連会長、塩路一郎氏の真実を描いた経済小説だが、ほとんどが実名で語られている。
とにかくその実態はひどいものである。
昭和57年の年収が1863万円。
7LDKの自宅を東京・品川区に所有し、組合の専用車プレジデントの他にフェアレディZ2台を使用。
「労組の指導者が銀座で飲み、ヨットで遊んで何が悪いか」と、広言してはばからない人物。
豪華クルーザーで美女と過ごし愛人を囲う「委員長」。
何が彼をそうさせ、誰がそれを許したのか?その疑問を解く独自の記録である。
労組そのものが悪なのではない。
健全な労使の関係は、企業を存続発展させる。
その意味では労組の果たす役割は重要だと言える。
ところが、限度を超えた労組の要求や過激な活動は、企業の存続を危うくする。
この当時の日産の労組の活動は明らかに、その限度を超えていた。
その意味でも塩路氏の責任は問われるべきであろう。
しかし、日産の錆は「塩路」だけではなかった。
塩路という怪物を育んだ企業体質そのものに問題があるといってよい。
一次下請けは日産を怨嵯し、二次下請けはその一次下請けを怨嵯するのが日産だった。
トヨタにはそれはなかった。
そして凋落の一途をたどる。
もはや自力での再建は不可能というところまでいってしまう。
この本を読むと、やはり日産の復活には、しがらみのないカルロス・ゴーンの登場が必要だったということが納得できる。
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