AD残酷物語/葉山宏孝
こんなことがあった。ある制作会社のADは仕事が終わったので、深夜宅送で帰宅した。この日は深夜に会議が行われていたが、彼はその会議に参加する必要がなかった。1時、2時・・・・・・いつまでたっても終わらない。彼は何もやることがないので帰宅した。当然だろう。
会議終了後、ADが帰宅したことを知った所属会社の女性ディレクターは烈火のごとく怒りだした。
「何おめー先に帰ってんだよ」
深夜3時過ぎにもかかわらず電話をし、すでに帰宅しているADを局内に呼び戻した。別に何か仕事があったわけではない。ただ、彼が自分より先に帰宅したことに腹を立てたらしい。
「先に帰るなんて随分えらくなったな!私たちだって昔そうやってきたんだから、おめーもやれよ」
深夜の局内の静かな廊下に、女性ディレクターの怒号だけが響き渡った。私は呆れながら聞いていた。
テレビ番組の制作現場では、少数のテレビ局の社員と、多くの制作会社の社員、派遣、請負の社員が混在して仕事をしている。
彼らは、たとえ同じ仕事をしていても、また、たとえ同じ能力を持っていたとしても、その待遇には天と地ほどの開きがある。
まさにそれは現代の奴隷制度さながらの世界。
中でもADの待遇はひどいもの。
長時間労働、暴力、虐待、嫌がらせ、セクハラ、パワハラ・・・
これらが日常的に行われている。
この本は、テレビ番組の制作会社に就職し、悲惨なADの世界に飛び込んでいった著者、渾身のノンフィクションである。
テレビの制作現場はひどいということはうわさには聞いていたが、この本を読んでみると、改めてリアリティーをもってその現実が迫ってくる。
そして、今はテレビ局そのものの収益もかなり厳しくなってきている。
おそらくそのしわ寄せは、制作会社の社員、派遣、請負の人たちにいっているのだろう。
益々、ひどいことが行われているだろうということは、想像に難くない。
テレビという一見華やかな世界の裏側に、いかに悲惨な現実が隠されているか、それを知るには最適な本だと思う。
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