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2011年10月20日 (木)

ガラスの巨塔/今井彰

_   月澤は労るように西を見つめ、
  「西、俺はもういいんじゃないかと思うんだ」
  「何がでしょうか」
  「チャレンジXだよ」
  「いいというと、つまり・・・・・・」
  「うん、止め時じゃないのかな」
  西は月津の顔をひたと見た。暫し沈思し、口ごもりながら、応えた。
  「今、止めるわけにはいきません--、あまりに規模が大きくなりすぎました。関わっている人間が、これで飯を食っている人間が多すぎます--」
  「それは分かっている。でもな、西みたいに将来、番組局のリーダーになるべき人材がみすみす痛めつけられ、傷つくのが、見ていて俺はつらいんだ」
  「ああ-、ありがとうございます・・・・・・」
  心のうちを汲み取るような人間的な温かさを久しぶりに感じた。
  「俺は人事部に長くいたからよく分かる。嫉妬がね、誰かが上になれば妬みでおかしくなる奴がたくさんいるんだよ、この会社はね。みんなそれなりに学生時代優等生だったろう。格差がつくのがたまらなく嫌なんだ。嫉妬というのは、時に人を滅ぼさないと止まらないもんだよ。これ以上傷つかないでくれ」
  西の身を慮った月津の真情が、西の胸を揺さぶった。(P266~267)

本書は、NHKのプロジェクトXの元プロデューサー、今井彰氏の小説の形をとった自叙伝。

小説の形をとっているので、実名は出てこないが、文面から誰のことを指しているのかはほぼ察しがつく。

1万人を超える社員を抱え、国内外に82の支局を構える全日本テレビ協会。

ここに、三流部署ディレクターから名実ともにNo.1プロデューサーにのし上がった男がいた。

湾岸戦争時に作った1本のドキュメンタリーをきっかけに、受賞歴多数の社会派ディレクターとして名を馳せ、プロデューサーとして手掛けた「チャレンジX」は視聴率20%超の国民的人気番組に。

この「チャレンジX」は、もちろんNHKの看板番組、「プロジェクトX」のこと。

しかし飛ぶ鳥も落とす勢いだった西は、やがて社内の嫉妬の渦に巻き込まれ疲弊していき、最後は依願退職という形で辞めていく。

もちろん、これはあくまで小説であり、著者の脚色があることは否めないが、NHKという巨大組織の闇の部分が余すところなく描かれている。

日本の組織は「出る杭は打たれる」という言葉に象徴されるように、組織の中で抜きんでた成果を上げた社員は、ほんとんどの場合つぶされる。

出世していくのは、むしろ波風立てずに組織の中を上手に泳いでいった人物。

やがてはそのような人物が組織のトップである社長になる。

そして同じようなことが繰り返される。

変革が求められておりながら、日本の組織が変われないのもこんなところにあるのではないだろうか。

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