〈わかりやすさ〉の勉強法/池上彰
先日、あるテレビの特番の収録後に、担当のプロデューサーが、こんな話をしてくれました。番組のアシスタントやアルバイトの学生に池上の印象を聞いたら、「バカな質問をしても怒られないですみそうな気がする」と話してくれたそうです。
そこで、プロデューサー曰く、「これが高名なニュースキャスターや有名司会者なら、うっかりバカなことを聞くと『そんなこともわからないのか』と怒られそうな気がする。池上さんだと「うん、それはね……」とバカにせずに答えてくれそうなイメージがあるんですよ」ということでした。
この反応は意外でしたが、なるほど、とも思いました。ここに「週刊こどもニュース」の経験が生きていると感じたからです。(中略)
とはいえ、私が昔からそういう態度をとれていたわけではありません。
かつて文部省(現文部科学省)の記者クラブに所属していたときのこと。民放の若い女性記者から、「池上さんに文部省のことについて聞くと、そんなことも知らないのか、という態度をとられるので怖い」と言われたことがあります。これはショックでした。いまでも鮮明に思い出すやりとりです。(P202~203)
池上氏は、テレビの現場で「わかりやすく伝える技術」を試行錯誤しながら身につけ、今や、わかりやすく現代を伝える第一人者となっている。
今も、丁度、「池上彰が伝える世界の今」という番組が放映されている。
しかし、最初からこのようにわかりやすく話せたわけではない。
文部省の記者クラブに所属する記者の時代は、知らず知らずのうちに尊大な態度をとっていたという。
それが今のようにわかりやすく伝えられるようになったのは、やはり「週刊こどもニュース」を経験したことが大きいという。
「こどもニュース」では、出演している子どもたちからの質問に対して、「そんなこともわからないのか」と言ってしまったら、それでおしまいだ。
どんな初歩的な質問をされても、わかりやすく説明しなければならない。
しかし、池上氏が「週刊こどもニュース」を担当したのも、言ってみれば偶然。
偶然がキャリア形成にいかに大きな役割を果たすのかということである。
人生は何が起こるかわからない。
計画通りにはいかないものだ。
キャリア形成も、自分の計画通りいくとは限らない。
しかし、だから面白いといえる。
もしかしたら、10年後、今とは全く違うキャリアを形成しているかもしれない。
こんなことを想像するのもまた楽しいことではないだろうか。
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