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2011年11月 8日 (火)

鈴木敏文の「統計心理学」/勝見明

4532193206  『日本経済新聞』の「私の履歴書」(02年3月)に、世界的な経済学者である宇沢弘文・東大名誉教授が登場された際、「人間の心」と題した回で興味深い話を記されている。83(昭和58)年に文化功労者に選ばれ、文部省(当時)での顕彰式の後、宮中で天皇陛下からお茶をふるまわれたときの話だ。昭和天皇の前でそれまでどんな仕事をしてきたかを話す。宇沢氏は「すっかりあがってしまい」、「ケインズがどうの、だれがどうしたとか自分でもわけが分からなくなってしまった」。
 すると、天皇が身を乗り出され、「キミ。キミは経済、経済と言うけれども、要するに人間の心が大事だと言いたいんだね」。宇沢氏は「そのお言葉に電撃的なショックを受け、目がさめた思いがした」。その理由をこう記している。
 「経済学はホモ・エコノミクス(経済人)を前提にしている。これは現実の文化的、歴史的、社会的な側面から切り離されて、経済的な計算にのみ基づいて行動する抽象的な存在である。経済学では人間の心を考えるのはタブーとされていた。この問題を天皇陛下はずばり指摘されたのだ。私はそのお言葉に啓発され、経済学の中に人間の心を持ち込まなければいけないと思った」
 これがきっかけとなって、宇沢氏は独自の新しい理論(「社会的共通資本」)を構築、国際的にも多大な貢献をし、これが評価されて九七年には文化勲章を授与されている。しかし、世界に名を知られる経済学者が「電撃的なショック」を受けるかなり以前に、「経済学の中に人間の心を持ち込まなければいけない」と考え、実行していた日本の企業経営者がいた。ほかでもない、鈴木敏文氏である。

経済活動をするのは人間である。

だとしたら「経済学の中に人間の心を持ち込まなければいけない」ことは当り前のことのように感じる。

ところが、宇沢氏によると、それは経済学の世界では画期的なことだそうだ。

そもそも、経済合理性だけで人間が動くわけではない。

合理的ではない行動をするのもまた人間である。

「専門バカ」という言葉があるが、専門家という名の人たちの言うことが意外と当てにならないのもそんなところにあるのかもしれない。

ところで、セブンイレブンをコンビニ業界はおろか国内小売店業界最大手にまで育て上げた鈴木氏。

その優れた経営手腕の特徴は、経営学の中に独自の心理学と統計学を持ち込んだことであろう。

しかも、鈴木氏のいう心理学とは、学問としての心理学ではなく、実践の中に培われたもの。

「モノ不足の時代には経済学だけで考えればよかったが、今の経済は経済学だけでなく、心理学で捉えなければならない」

「消費社会は単に経済の問題として捉えるのではなく、人間の心理に基づいて考えなければならない」

ことあるたびにそう力説する鈴木氏の言葉は非常に含蓄がある。

本書は、心理学を経営の場でどのように活用していったのかが、様々な角度で書かれている。

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