元役員が見た長銀破綻/箭内昇
95年10月の部店長会議で、大野木頭取着任後のバブル反省報告である「須田レポート」を聞いたときの驚きと落胆は忘れられない。
「長銀バブルの間接的要因の一つとしてヘイの人事システムがあった」「職に貴賤はないはずなのに、ジョブサイズの導入によって地道に働く部門のモラルを下げた」「業績重視のあまり、目先の数字の積み上げに走った」という趣旨であった。
そこにはヘイを導入したときの危機感もビジョンもなく、いまだに目の覚めない体質と壮大な誤解があるだけであった。
職に貴賤がないことは当然であるが、大小はある。昨今になってようやく子会社化して分離した事務部門なども、ジョブサイズの概念があれば、もっと早くできたはずである。また、異常に膨れ上がった本部人員も職務分析を継続していればチェックがかかったはずであった。
「かわいそう」「何とかしてやれ」。長銀は人間愛に満ちた暖かい銀行であった。しかし、それが銀行の活力をそぎ、結局は行員に「かわいそう」な思いをさせることになったのである。
バブル崩壊後の不況で破綻した長銀。
企業が倒産する場合、ほとんどの原因は経営者にある。
ところが、とかく何かのせいにしたくなるのが経営者でもある。
長銀の場合、破綻前の95年に出された、バブル反省報告である「須田レポート」の内容を見ると明らかに人事制度のせいにしてしまっている。
「長銀バブルの間接的要因の一つとしてヘイの人事システムがあった」
「職に貴賤はないはずなのに、ジョブサイズの導入によって地道に働く部門のモラルを下げた」
「業績重視のあまり、目先の数字の積み上げに走った」
成果重視型の人事制度を導入し、うまくいかなかった会社がその原因として語る内容の典型例である。
しかし、本当の原因はそんなところにあるのではない。
変化しなければ生き残れないというのは、時代の流れである。
人事制度はそれをサポートするシステムの一つにすぎない。
経営者がまず本気になって変わろうとしなければ人事制度が機能しないのは当り前。
本書を読むと、長銀の破綻は、単に「あの外資系の勧める人事制度を入れたから」という表面的なものでなく、もっと深いところにその原因があったのだということがよくわかる。
長年の護送船団方式の中で、危機感を持てなくなってしまった経営者と社員。
能力ある若手を塩漬けにし、大胆に登用できない組織。
バブルに踊った中堅行員たち。
そして巨大な不良債権をひたすら隠蔽する役員。
起死回生策のはずが、逆に崩壊に拍車をかけることになった外資との提携。
時代の流れについていけず変化対応できなかった恐竜のような存在、それが長銀だったということであろう。
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