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2011年11月25日 (金)

交渉術/佐藤優

Bt000013450500100101_tl  このとき、西村氏が、身を乗り出して、鈴木氏に言った。
「大臣、僕の目をみてください。これが嘘をつく男の目ですか」
 西村氏は最終兵器としてこの言葉を吐いたのだろう。しかし、この最終兵器は鈴木氏には通じなかった。鈴木氏が、西村氏の瞳を見据えて言った。
「これは嘘つきの目だ」
 数秒間、沈黙したまま二人は睨み合った。そこで、異変が起こった。西村氏が、突然、「ウ~」といううめき声をあげて、じゅうたんの上で屈み込んだあと、身体を横にして、アルマジロのように丸くなってしまったのである。(中略)
 予想外の事態に鈴木氏が慌てた。
「西村さん、大丈夫か。どうしたんだ」
 西村氏はじゅうたんの上で丸くなったまま動かない。
 私も西村氏のそばに寄った。西村氏は目をつぶって丸くなっている。眼鏡が少しずり落ちていたが、意識を失っているわけではなさそうだ。鈴木氏が西村氏に声をかけた。
「もういいよ。西村さん、今日はほんとうにありがとう。よくやってくれた。もう帰っていいよ」
 西村氏は、すくっと立ち上がって、「鈴木大臣、それでは失礼します」と言った。
「あんた大丈夫か。一人で帰れるのか」
「大丈夫です」
「車はあるのか」
「下に公用車をまたしてあります」
 西村氏は、何事もなかったように、一礼して、長官室を後にした。

まるでマンガのような話しである。

五十代の大臣と外務省の局長が「僕の目をみてください。これが嘘をつく男の目ですか」、「これは嘘つきの目だ」と、まるで小学生のケンカのようだ。

しかし、外務省の局長が、じゅうたんの上でアルマジロのように丸まってしまうというのは、おそらく鈴木氏にとっても予想外の展開であったろう。

事実、このあと、西村氏はこれ以上大臣から虚偽を追求されることなく難を逃れる。

これも一つの自分を守る術の一つなのだろう。

国会議員と比べ、官僚は弱い立場にいる。

このアルマジロのように丸まった「死んだふり」こそが、窮地に陥った弱者にとって最大の武器だったのだろう。

しかし、一般の人には理解できない行動であることは確かだ。

私などは、「人間としての誇りはどこにいったんだ」と思ってしまう。

「そこまで自分をおとしめてでもも、自分と自分の立場を守りたいのか」と思ってしまう。

ただ、これも処世術の一つであることは確かだ。

私にはできなきことだが。

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