TPPが日本を壊す/廣宮孝信
労働については、TPPと同時に締結される予定の「労働協力に関する覚書」というものが存在します。
覚書によれば、国際労働機関(ILO)加盟国としての義務の確認、「労働における基本的原則と権利に関する国際労働機関宣言およびそのフォローアップ」についての約束の確認、労働についての国際的な約束に一致した労働法・労働政策・労働慣行の確保、労働法制・政策策定における主権の尊重が謳われています。同時に保護貿易のために労働法・労働政策・労働慣行を定めることは不適切であると規定されているのです。例えば日本人労働者に対する労働政策を海外の国々と合わせる、場合によっては労働条件や雇用保険などの社会保障条項も合わせなければなりません。
このことによって、日本人の労働環境は激変する恐れがあります。TPP参加によって日本的なローカルルールが規定に抵触するということは、終身雇用や社会保障が否定されるということと同義なのです。
もちろん逆のことも考えられますが、TPP加盟国のなかには発展途上国もあり、これらの国の企業が十分な社会保障を行う体力がない以上これが「国際的な約束に一致した」条件ということになります。日本人労働者の権利は大幅に制限され、海外企業での労働条件とほぼ同じ内容になる可能性があるのです。
今、TPPの問題がマスコミを賑わしている。
ところが、その議論は「経済成長」か、それとも「農業保護」かという二者択一に終始しているように感じる。
しかし、TPPは農業だけの問題ではない。
サラリーマンの雇用や社会保障、地域経済にも甚大な影響を及ぼす。
ところが、あまりにも議論が矮小化され、二者択一という単純な図式にすり変わってしまっている。
私自身、TPPそのものについては、賛成でも反対でもない。
と、言うより、よくわからないのである。
正しく考え判断するに必要な情報が充分に提供されていないのに、賛否を論じることなど論外。
国会で議論している当の議員も、本当にわかって議論しているのだろうかと勘繰りたくなる。
そして、一番の問題は、本来は「国のあるべき姿」という視点を基に、どのような状態が「最も国益にかなうか」を議論すべきで、その結果としてTPPに賛成なり反対といった結論や、もしくは修正付きの折衷案といった結論を見いだすべなのだが、そのようなビジョンが全く見えない。
これを機に、もっと国家のビジョンについて、真剣に論じてもらいたいものだ。
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