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2011年12月27日 (火)

人を動かす力/渡部昇一

Znp19  乃木のもとでは、兵隊が実に勇敢であった。当時の日本の兵隊は、すべての戦線において勇敢であったと言いうるのだが、乃木のところの兵士たちはとくに勇敢であった。これにはさまざまな理由があるのだが、兵士を心情的に鼓舞したと思われるのは、やはり乃木自身が二人の息子を、二人とも戦死の恐れのある危険な場所に配置したことだろう。このことは当時の兵隊のモラール(士気)に大いに影響があったと考えられる。しかも、乃木は出征する時に、「遺骨が一つ届いたからといってあわてて葬式を出すな、三つ届いてから行え」と夫人に言いおいて出てきている。乃木家の三人ともが死ぬ覚悟でやってきているわけである。
  その頃「ひとり息子と泣いてはすまぬ、ふたり亡くした方もある」という歌があった。田舎でよく歌われた歌のようであるが、「ふたり亡くした方」とはもちろん、乃木のことである。当時のひとり息子とは、家のただ一人の跡継ぎである。「家」の感覚が強い明治時代に相続人を亡くすことは大問題だった。なにしろ家が途絶えてしまう。そのうえ乃木の場合、二人の息子を一つの戦場で亡くしてしまったのだ。これは乃木の無私の精神と深く関わりのあることであろうが、そうした自分を捨ててしまったようなところも、兵たちのモラールを高めたに相違ない。そうした点からも乃木というのは実に私心を感じさせない人物であったと思われる。

今週の日曜日で、NHKの大河ドラマ「坂の上の雲」は最終回を迎えた。

そのなかでも乃木将軍が登場したが、ドラマでも描かれていた通り、戦術家としての乃木は優れているとは言えない。

日露戦争では、なかなか旅順要塞を落とせず、最後は児玉源太郎が指揮をとって代わり二百三高地を攻略したことが描かれている。

ところが、そのような乃木将軍の元、多くの日本兵が命を賭して戦い命を落としている。

そうなさしめたのは、乃木の持っていた不思議な魅力、言い換えれば人徳とも言うべきものだろう。

この人徳の源泉は、現在のリーダーが時に忘れているもの。

私心なく誠心誠意行うということ。

戦場ではウソやハッタリはきかない。

私心が見えたり、勇気がないように見えたりする司令官は、部下がたちまちこれを見抜くものだ。

これは想像の域を脱しないが、兵たちは自分たちよりも乃木大将のほうが苦しんでいることを感じていたのではないだろうか。

人徳というと、何か古めかしい考え方という印象があるが、

人を動かすのは、結局のところ、このような人間の生き方の本質の部分なのではないだろうか。

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