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2011年12月 5日 (月)

深夜特急4―シルクロード―/沢木耕太郎

Bt000012946700400401_tl   パキスタンのバスは、およそ世界の乗り物の中でこれほど恐ろしいものはない、と思えるほど凄まじいものだった。
  確かにインドのバスもかなりのものだった。
  さほど広くもない道の真ん中を猛スピードでぶっ飛ばす。もちろん、一台で走っているならそれでもいいが、二時間も三時間も対向車がこないはずがない。当然、向こうからも車がやってくる。そのときインドのバスの運転手はどうするか。何ということか、どうもしないのだ。そのまま道の真ん中を堂々と飛ばし続ける。相手が乗用車や小型のバンくらいならいい。向こうが道の横によけてくれる。だが、もしそれが大型のトラックだとしたら、これは絶望的なことになる。こちらもぶっ飛ばす、相手もよけようとしない。二台とも道の真ん中を走り続け、トラックはみるみる接近してくる。
  「ああ!」
  と悲鳴をあげそうになる一歩手前でトラックがよける。いや、バスがよけることもある。まるで、アメリカのヘルス・エンジェルスの連中がよくやったというチキン・レースそのままなのだ。逆方向から車を走らせ、どちらが先によけるかで、肝っ玉を試す。先によけた方が臆病者、つまりチキンというわけだ。(中略)
  しかし、パキスタンのバスは、この壮絶なインドのバスのさらに上をいくものだった。
  猛スピードで突っ走ることは変わらない。向こうからやって来る車と肝試しのチキン・レースをやることも同じだ。違うのはそのレースの仕方の凄まじさである。(中略)
  インドのように何メートルか手前でどちらかがよけるというようなこともない。三台が三台とも猛スピードのまま突進する。ぶつかる、と何度思ったかしれない。それが不思議とぶつからない。ああ、と眼をつぶり、再び眼を開けると、どうにかなっている。神技としかいいようがない。三台が三台とも何事もなかったように走っている。

沢木氏は、移動の手段をバスにこだわって旅をした。

そのなかで、パキスタンのバスほど恐ろしいものはなかったと回想している。

それにしても、パキスタンのバスの運転手はどうしてそんな無茶な運転をするのだろう。

バスは公共の交通機関である。

その運転手がチキンレースをして、もし事故をでも起こしたら、日本であれば大問題になる。

しかし、お国柄なのだろうか。

パキスタンではそれが日常的に行われているらしい。

でも、何となくわかるような気もする。

人は命の危機を感じた時ほど、生を実感するもの。

このバスの運転手も、毎日チキンレースをすることによって自分が生きているということを実感していたのかもしれない。

単なる想像だが。

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