勇気の出る経営学/米倉誠一郎
3Mという会社はイノベーションを組織化しようとずっと努力しています。イノベーションだけが企業を成長させることを知っているからです。3Mが全従業員に「15%ルール」を適応しているのは有名です。全社員は自分の夢に、自分の予算と時間の15パーセントを使ってもいいのです。しかし、3Mは一方で各事業の売上げの四分の一は常に四年以内の新製品でなければならないと決めています。絶えず新しいイノベーションへ向けて圧力をかけているのです。
同時に同社の制度も徹底しています。社員の創意工夫を高めるために、「提案制度」を取り入れようと、どこの会社も言います。しかし、そのあとがどうなったかは誰も知らない。だいたいが、そのまま宙に浮いて、そのうちに消滅してしまうものです。3Mでは、上司は部下の提案を却下するときには「挙証責任」が必要である、としたのです。部下提案に対して「ノー」と言った時はその理由をつけなければならないのです。上司は常になぜ却下したかと理由が問われるとなると、サンプルテストの結果だめだったとか、消費者百人に意見を聞いたけど九十八人がノーと答えたとかの実証的な理由が必要となります。
そういうものをつけなければならないとなると、まず部下の意見や考えをよく知ろうとします。と同時に、論理的に言葉にする、すなわち形式知にする訓練が上司に生まれ、経営に緊張感がみなぎるのです。
現在、イノベーションを経営課題にあげる企業は多い。
そして、そのために提案制度を導入する企業も多い。
ところが、大部分の企業はそこで終わってしまう。
結果、「何も変わらない」ということになる。
何故、提案制度を入れただけでは何も変わらないし、変われないのか?
それは組織の力学を考えるとよくわかる。
通常、組織の構成員の中で、変革を心の底から望んでいる人は一部だ。
多くの構成員は、「できれば変わりたくない」「変えたくない」思っている。
人間とはそれほど保守的な動物なのである。
しかも組織の上層部に行くほど、保守的な人の比率は高くなる。
仮に、そのような組織の中で、革新的な提案が部下から上がってきたら、どういうことが起こるのか。
おそらく、上司は部下の提案を握りつぶす。
その結果、本当の意味でイノベーティブな提案は陽の目を見ず、どうでもいいような、お茶を濁すような提案が採用される。
結果、組織は何も変わらない。
そのうち提案制度そのものも消えてしまう。
これが多くの企業がたどる道。
組織にはこのような力が働くのである。
その点、3Mでは、上司は部下の提案を却下するときには「挙証責任」が必要とされる仕組みがある。
こうなると、上司は下手に部下の提案を握りつぶせない。
ここに違いがある。
つまり、変われない企業は、この辺りの詰めの甘さがあるのである。
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