会社は毎日つぶれている/西村英俊
会社は成長を続けていくために産業の流れ、社会の変化、技術の進歩に対応して、そしてまた、自分の会社自身をグローバル市場に適合させていくため、成長のエネルギーを得るた
めに、新しい事業に投資をしていきます。会社の資金と技術と人材を新しい事業に振り向けていきます。このプロセス、新しい事業展開を決めていく、会社の将来の運命を決める投資を、社長、あなたの責任で決めていくのです。
この投資の決定いかんによって会社は成長もし、またつぶれもします。社長であるあなたにとって、またはあなたが権限を委ねた投資執行責任者の役員にとって、会社の将来にわたるこの上ない重要な決定を求められる場面です。
日本の企業は意思決定が遅いと一般に言われます。欧米や中国、インドなどの新興国に比べ、物事を決めるのに著しく時間がかかると言われています。実際、時々多国間のコンソーシアム(共同事業体)に時間切れで乗り損なうことも珍しいケースではありません。一番大きな理由は、日本人が歴史的に水田での稲作民族であって、狩猟民族の末裔である欧米人の企業とも、個人のオーナーシップで運営される新興国企業とも、意思決定における実務的な、また心理的なプロセスが全く異なっているというところにあります。
日本企業は意思決定が遅いとよく言われる。
そして、その理由の一つとしてあげられるものに、「日本人は稲作民族だから」というものがある。
確かに、稲作では、和を乱さず、集団に同化して、まじめにコツコツと働くことが求められる。
日本は民主主義が入ってくるずっと前から、合議制である。
対立した意見があっても、その集団の長がうまく根回しをしながらまとめあげ、合意形成をする。
また稲作は、自然が相手なので、ジタバタしてもしょうがないというところがある。
台風がきたら、干ばつがきたら、もうそれを受け入れる以外ないのである。
さらに稲作では、年間を通じて完壁なチームプレーが求められる。
一日の日照も取り込み損なってはいけない、一滴の水も無駄にしてはいけないという、それこそ水も漏らさぬ計画が作られる。
この計画は経験あるリーダーの指導の下に精緻に定められる。
そしてその地域で稲作に携わる人々すべてが計画を理解して同意し、それぞれの役割を果たす義務を負う。
仮に、構成員の一人が理解を誤ったり、義務を果たさなかった時には、村八分という制裁を受ける。
なぜなら、誰かがどこかで誤れば、チーム全体が一年分の収穫をふいにするというリスクがあるから。
これに比べれば、狩猟型集団の意思決定はもっと単純。
この森には獲物がいそうか、いそうでないか、いるとしたらどんな方法で攻めるのが最適かを、リーダーが中心になって経験から割り出し、実施するだけ。
実施にあたっては、多少の突出者や反対者がいてもしょうがないと受け入れられる。
大した成果がなければ、さっさと割り切って、次の猟場へ向かう。
つまり、リーダーに求められる能力が全く違うのである。
稲作民族の場合は対立する意見をうまくまとめあげる調整力であり、狩猟民族の場合は、適切な判断をし、集団を引っ張る判断力とリーダーシップ、というように、全く違っているのである。
この永い歴史の積み重ねによって出来上がってしまった体質・気質が、今の日本のリーダーの土台となっているのは、否定しようがない。
問題は、変化の激しい現代は明らかに、狩猟型のリーダーが求められているということ。
もう今どき稲作型、狩猟型と区分するのもどうかという考えもあるのだが、かといってそれを否定できない部分を明らかに内側に持っているということも認める必要があるのだろう。
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