会社に人生を預けるな/勝間和代
私たちの将来の変動幅が大きくなった理由は、「再帰性」という概念を使って説明することが可能です。この概念を分かりやすく説明すると次のようになります。
たとえば、Aさんの行動はAさんの友だちであるBさんの行動に影響を与えますが、BさんはBさんでCさんの行動に影響を及ぼします。これと同じように、Cさんの行動はDさんの行動に、DさんはEさんに、そしてEさんの行動は再びAさんの行動に影響を与え……と、こうした影響の連鎖というものは誰しも想像できると思いますが、これが「再帰性」と呼ばれるものです。
この影響の連鎖がグルグルと動き始めると、その動きは時間とともに加速し、誰もが予想できないような状況にまで発展することがあります。しかも、この流れがインターネットを使ってグローバルに起きると、過去のように数年間かけてゆっくりと変化していたものが、ほんの数時間で一気に起きてしまうのです。
本書で著者は「終身雇用」の問題についてかなりしつこく述べている。
現代は変化の激しい時代と言われる。
それは、この「再帰性」という言葉で説明できる。
つまり、影響は人から人へと波及するものだが、現代はインターネットの影響でこの速度が極端に早くなった。
しかも以前はその人の生活圏だった影響が、グローバルな形で影響を与え、与えられる形になってきている。
変動幅が極端に大きくなり速度も早くなった、これが現代である。
ところが、日本の多くの企業の雇用形態は、数十年来変わっていない。
確かに派遣や期間雇用社員が増えてきたが、基本的に日本企業は終身雇用である。
企業も入社してくる社員にずっと働き続けることを求め、社員も企業に雇用し続けてくれることを求める。
ところが、変動幅の早く大きくなった現代は、この終身雇用が大きなリスクになる。
もちろん、持続可能であれば会社にとっても社員にとっても終身雇用ほどよい制度はない。
しかし、あくまで「持続可能であれば」という条件付きである。
そうでなければ、終身雇用は大きなリスクになる。
報道によると、米国は景気が回復基調に乗ってきたようだ。
日本はまだまだ。
この一つの原因は、企業の雇用形態にある。
米国の企業は、景気が落ち込めば、すぐに社員を減らす。
そのため、影響を最小限にとどめることができる。
そして景気が回復してくれば、社員をどんどん雇い入れる。
どうしてこのようなことが可能かといえば、米国の場合は、社員の解雇制限が日本ほど厳しくないからだ。
景気が悪くなれば社員を減らし、景気がよくなれば社員を増やすことが比較的ラクにできる。
対して、日本はどうだろう。
景気が悪くなっても、会社は社員を雇い続ける。
その間、企業の体力はどんどん弱まってくる。
そして、いざ経済が回復してきても、大胆な社員の雇用はできない。
なにしろ、また景気の悪くなった時のことも考えなければならないから。
こう考えると、変動幅が大きくなった現代においては、日本企業の終身雇用がますます大きな足かせになってくるであろうということが予想される。
会社も社員も、「働く」ということについて、そろそろ意識を変えるべき時期に来ているのではないだろうか。
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