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2012年3月 1日 (木)

ザ エクセレントカンパニー/高杉良

200504000046   高木は、社長応接室で新聞を読んでいた。
「失礼します。川森を連れて参りました」「失礼します」川森は緊張し切って、顔が蒼ざめていた。
  背広の内ポケットから取り出した封書はカドが擦れて、丸承を帯びていた。
「この度は、わたしの至らなさから、重大な結果をまねきまして、まことに申し訳ありませんでした」
  高木の前に進み出たとき、膝頭がふるえ、封書をセンターテーブルに置く手もふるえた。
  高木は、新聞を畳んで、脇にどけ、封書を手に取った。
  そして、中の辞表を引っ張り出して、ちらっと目を走らせたが、封書と一緒に力まかせに二つに引き裂いた。
「辞める必要はない。こんなことで挫けるんじゃないぞ。いい勉強になったな。頑張ってくれ」
  高木はソファから腰を上げて、表情をゆるめ、川森にからだ躰を寄せて肩を叩いた。
  川森はこみあげてくるものを制することができず、肩をふるわせて、むせび泣いた。
  高木は、右手をあげながら、西村に目配せして執務室に入った。
  西村が、あわて気味に、「ありがとうございました」と大声を発し、低頭した。
  川森は、ひざまずいて、叩頭したが、声を出せなかった。
「川森、よかったな」た西村が川森を抱き起こしにかかったが、川森はしばらく起ち上がれなかった。
「もういいだろう。深井専務に電話をかけなければならないんだ」西村にささやかれて、川森はやっと体勢を立て直した。

この小説のモデルは「マルチャン」の即席麺でおなじみの東洋水産。

「サンマル」のブランドで知られる大手食品メーカー東邦水産は、サンマル・INCを立ち上げ、即席麺の米国市場に進出する。

長年悩まされた赤字からもようやく脱却し、第二工場も稼動を開始するが、セクハラ問題、ユニオン対策など、従業員の文化の違いに直面する・・・、といった形で物語は進行する。

これらは米国に進出した日本企業の多くが直面した問題であるだけに、リアリティがある。

また、今、多くの企業が中国をはじめとしてアジア各国に進出しようとしていることを考えれば、今後も日本企業が異文化の中で、これとはまた違った形で、争いに巻き込まれる可能性は多いにあり得る。

上記はこの小説の主人公、川森がセクハラ問題で窮地に立たされたあげく、会社が5万ドルの和解金を支払うことになった責任をとって、社長である高木に辞表を出すという場面。

ところが高木はこれを破り棄てる。

高木のモデルは東洋水産の創業者、森和夫。

著者、高杉氏によれば、これは事実だという。

この場面は、森和夫のエピソードが題材になっているという。

会社に5万ドルもの損失を与えれば、当然懲戒解雇である。

ところが、普通だったら懲戒解雇のところをクビにしない。

失敗した社員にもう一度チャンスを与える。

かつての日本の経営者にはこのような懐の深さがあった。

日本的経営と言えば、何か古くさいという印象を与えてしまうが、かつてそれが日本の強さの源泉になっていたという事実は確かにあったのではないだろうか。

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