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2012年3月 3日 (土)

これから「正義」の話をしよう/マイケル・サンデル

Sandel   アメリカ国民がボーナスーーまたは救済措置ーーに本当に反対するのは、それが強欲に報酬を与えるからではなく、失敗に報酬を与えるからなのだ。
  アメリカ人は、強欲よりも失敗に厳しい。市場主導の社会では、野心的な人間は精力的に利益を追及するものと思われているが、利己心と強欲の境界は曖昧だ。ところが、成功と失敗の境界はもっとはっきりしている。人間には成功がもたらす報酬を手にする権利があるという考え方は、アメリカン・ドリームの中核をなしている。
  オバマ大統領は強欲に軽く触れたものの、争いと怒りのさらに深い源泉が失敗への報酬であることを理解していた。政府の救済資金を受けた企業の幹部への報酬制限を発表した際、オバマは救済措置に対する怒りの本当の意味をはっきりと述べている。

ここはアメリカです。われわれは富を軽蔑しません。他人の成功を妬んだりしません。そして、成功は称えられるべきだと確信しています。しかし、人びとが当然にも憤慨しているのは失敗した経営者が報酬を得ていることです。その報酬を納税者がまかなっているとなれば、なおさらです。

本書は、NHK教育テレビで放送され話題となった『ハーバード白熱教室』の講師、マイケル・サンデル教授の著書。

金融危機、経済格差、テロ、戦後補償といった問題を、「正義とは何か」という哲学的なアプローチから論じている。

ここでは、2008年10月、米国の金融危機の際、大手の銀行や金融機関を救済するために国民の税金が使われたことを題材に、「正義」について論じている。

その際、特に批判が集まったのはAIGに対してだった。

この巨大保険会社は、金融商品部門によるハイリスクな投資のせいで破綻に追い込まれたにもかかわらず、当の部門幹部に1億6500万ドルのボーナスを支払っていた。

100万ドル以上のボーナスを受け取った社員は73人にのぼったという。

では彼らはなぜ批判されたのか?

「強欲」に対してなのか?

そうではなく、「失敗」に対して報酬が支払われたからだ、と論じている。

「人間には成功がもたらす報酬を手にする権利がある」という考え方は、アメリカン・ドリームの中核をなしている。

ところが、このケースでは「失敗」に対して報酬が支払われた。

これは明らかに「正義」に反する、というわけだ。

本書でサンデル氏が言っていることは、哲学は、机上の空論では断じてない。

現代世界を覆う無数の困難の奥には、つねにこうした哲学・倫理の問題が潜んでいる、と、いうもの。

何か事が起こると、「どのように対処するのか」と、現実的な対処法に目が向きがちだが、

時には、本質的な問題について考えることも必要だと思わされた。

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