ポリティカル・セックスアピール/井上篤夫
2008年1月3日、大統領予備選挙を争う民主党候補のヒラリー・クリントンは、アイオワ州の民主党党員集会で、それまで互角に戦ってきたバラク・オバマに大きく水を開けられ惨敗し、窮地に立たされていた。ところが、5日後のニューハンプシャー州の予備選では、地盤的に不利と言われていた予想を覆し、一気に立て直しに成功する。
それには、実はある計算されたひとつの仕掛けがあった。
この予備選の前日7日、ヒラリーは支持者との対話集会に出席していた。そのとき、彼女は突然、感極まったように彼らの前で目をうるませて、熱っぽく国の未来を憂える心情を語りだしたのだ。ヒラリーの表情はハリウッド映画のヒロインのようにも映った。このシーンが報道されるや、人びとの共感を呼び、一位を獲得することになったのである。いかにもアメリカならではの世論の作られ方と言えよう。
しかし、これが“演出された”ヒラリー陣営の戦略だったとしたらどうだろう……。
本書は、ルーズベルトからオバマまで、ハリウッドとワシントンがいかに結びついてきたかが書かれている。
大統領選の裏側で、もはや映画製作者たちは欠かせぬ存在となっている。
どの陣営も有能なスタッフを抱え込みイメージ戦略を練っている。
ちょうど映画スターを売り出すように。
たとえば、大統領予備選挙を争う民主党候補のヒラリー・クリントンはこのイメージ戦略を駆使した。
ヒラリーは「強い女」のイメージを払拭しようと必死になっていた。
ヒラリーは個性が強い政治家。
それだけに、支持者が多いと同時に「ヒラリー嫌い」も極めて多い。
そのため彼女は、幅広い層の支持を獲得する作戦に打って出て、専属のハリウッド・プロデューサーをスタッフに置いていた。
だから、上記のヒラリーの涙の裏には、実はハリウッド・チームの綴密な計算がなされていたというのである。
かつて俳優出身のレーガン大統領は「大統領を演じた男」と言われた。
アメリカ大統領に必須の条件は、カリスマ性はもちろんのこと、映画俳優のようなセックスアピールに溢れた魅力、それにそう見せるための表現力。
大統領選における過剰と思えるような演出には、ちょっとついていけないと思える部分もあるが、日本人も学ぶべき点はあるような気がする。
やはり人々はリーダーに「人を惹きつける力」を求めるものだ。
また、それによって人々が動くのもまた事実である。
その意味では、日本の政治家も、リーダーらしい立ち居振る舞いを少しは研究した方がよいような気がする。
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