ソニーの法則/片山修
盛田さんとのいちばんの思い出といえば、やはり飛行機のなかでなんですが、「飛行機が落ちたら、どうするか?」という問いに端を発して、宗教論争をしたことがあるんです。お互い熱くなって、延々やりました。そのとき、盛田さんは、「君ね、やっぱりそれはその人の運命だから、乗った飛行機が落ちたら、その人が落ちる運命にあっただけのことだよ」といったのです。私は、「ああ、いい答えだなあ」と、しみじみ思いました。その何とも潔い答えが、当時の私の心にしみ込んだのを、いまだに覚えていますよ。
盛田さんという人は、そういう潔さを持った人ですから、ビジネスの面でも、気持ちのいいスピード感がありました。周りの状況が変わったら、さっと戦略を切り換える。これはいかんと思ったら、すみやかに撤退して次を考える。そういうときのスピードが、ものすごく速い。
かつて、盛田さんは、大きなビルを建てて半年もしないうちに、つぶしてしまったことがあるんです。まだ本社ビルが木造だった時代、木造の建物の裏に、新しいビルを建てた。そのピカピカの真新しいビルを、本当に壊してしまった。「盛田さん、何でそんなもったいないことをするんですか」と、私は聞きました。すると、「いや、君ね、あのビルは失敗作なんだよ。人間、誰しも失敗はするもんだから、失敗したときはスピードでカバーすればいいんだよ」といって、平然としていました。その言葉は、本当に強烈でした。
本書は、ソニーの現職、OB、若手からトップまで、年齢、性別、職種の異なる14人へのインタビューから構成されている。
様々なエピソードの中で、一番多く登場するのは、やはり創業者の井深大氏と盛田昭夫氏についてである。
表記のエピソードは盛田氏についてのもの。
少々乱暴な面もあるが、ものすごいスピード感である。
やはり経営のトップはこのくらいのスピードと決断力、そして潔さが必要なのだろう。
この当時のソニーは、日本の企業でありながら、まったく日本的ではない。
ソニーのトップは、おとなしく神輿に乗っているようなタイプではなかった。
自分で考えて、自分で動いて、何かひらめいたものがあると、自分で何でもつくってしまう。
そんな人たちばかりだった。
井深氏はその急先鋒で、天才的な直観力をもって、ソニーをグイグイ引っ張っていった。
そして盛田氏も持ち前のセールスマンシップとバイタリティーでソニーを世界的な企業に成長させた。
恐らくそれがソニーのDNAなのだろう。
しかし、本書の書かれたのは、1998年。
今から、10年以上も前のこと。
今もそのDNAは受け継がれているのだろうか?
最近のソニーをみると、ソニーらしさが失われてしまっているように見えてならない。
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