合併人事/江上剛
日未子は以前、合併企業の役員からこんな話を聞いた。
「合併ってのは、大変でね。ばかなことをやっていたものさ。以前僕はね、ある部長の下で、次長として働くことになった。もちろんその部長は僕とは別の会社出身さ。するとね、自分の出身会社の上司に呼ばれ、こう言われたんだ。サボれ、なんだったら休んでいい。あの部長の仕事をやりにくくしろってね。おかしいって思ったよ。でも相手は真剣でね。最後にこう言うんだ。お前の人事は俺がみているんだからなってね。それで僕がどうしたかって?そりゃ、僕も我が身がかわいいからね。できるだけサボって、その部長が躓くようにしたのさ。嫌だったけど、仕方ないさ。自分が生き残るためだよ。その部長はついに仕事に行き詰まって失脚したよ。嫌な思い出だね」
今やM&Aは特別なことではなくなった。
明日は我が身と思っている社員も多いのではないだろうか。
本書は、その合併人事によって、振り回されるOLを主人公に、男たちの権力闘争、ポストをめぐる足の引っ張りあい、部下の手柄の横取り、パワハラ等を描いている。
2つの会社が合併すれば、当然、一人一人の社員に旧○○社出身、旧△△社出身というレッテルが貼られ、その見えない力の影響を受ける。
そしてそれは昇進、昇格、異動等、様々な人事に影響を及ぼす。
誰であっても、一番かわいいのは我が身。
合併後の自分の人事が一番気になるところ。
そう考えると、この小説で描かれているようなことが、合併後の社内では起こっているのであろう。
そもそも、M&Aは経営を効率化するために行うもの。
しかし、人は合理性ではなく感情で動く。
M&A後の効率化が、思った程進まないのも、こんなところに原因があるのかもしれない。
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