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2012年6月 3日 (日)

運命の人(一)/山崎豊子

Bt000014260900100101_tl “沖縄の返還なくして、日本の戦後は終わらない”という名台詞を吐き、全国民を感動させた佐橋総理の公約から既に6年、交渉の道のりは険しく、もはや沖縄返還は、無策を批判されている佐橋総理の延命策とも、今期で引退するに当たっての花道とも云われている。
 冷えたお茶を飲み終り、席をたちかけた時、机の引き出しからはみ出している書類が眼についた。さっき安西審議官が慌ただしく引き出しに突っ込んだ書類の先が一枚、めくれて垂れ下がっている。そこに記されている“LIST C”“NAHA AIRPORT”という文字が弓成の眼を射た。一瞬の躊躇はあったが、その英文の書類を引き抜くと、まさくし沖縄の米軍基地返還予定リストであった。安西は急いできちんとしまい忘れたのではなく、見えるように一部をはみ出させて行ったのではないか・・・・・・。長い付き合いの中で安西は、過去にこういう形での情報伝達をする事が一度ならずあった。それは単に安西の弓成に対する個人的な好意ばかりでなく、外務省の思惑が絡んでいることもあった。

「この作品は事実を取材し、小説的に構築したフィクションである」と冒頭に記載されているが、実際にあった西山事件を想起させる内容である。

西山事件とは、1971年の沖縄返還協定にからみ、取材上知り得た機密情報を国会議員に漏洩した毎日新聞社政治部の西山太吉記者が国家公務員法違反で有罪となった事件。

そしてこの小説の主人公、弓成のモデルは西山である。

ただ、本書を読んで感じるのは、官僚からの情報のリークは上記のような形で度々あったのだということ。

しかし、そんなことで裁判ざたになったりはしない。

なぜなら、情報をリークする側も、それを元に記事を書く側も、お互い持ちつ持たれつの関係だから。

ではなぜ弓成は訴えられたのか。

それはその情報の内容が佐橋総理(モデルは佐藤総理)の引退の花道であったはずの沖縄返還に泥を塗るようなものだったから。

おそらくそのようなことであろう。

政治とはそもそもそんなきれいごとではなく、ドロドロとしたもの。

しかし、そんなことをあれこれ考えていると、「正義とは何か?」と本当に考えてしまう。

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