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2012年8月13日 (月)

小説 帝銀事件/松本清張

Books そうだ。軍関係の捜査は、どこで消えたのであろう。警視庁主流がラッパを鳴らし全力を挙げて、この方面に立ち向かった筈だ。帝銀事件圏の少なくとも半面が軍関係の捜査だった。あとの半面が平沢である。しかし、軍関係は途中で潰滅し、平沢だけが取り残された。いや、軍関係捜査が壁に突き当たって、捜査陣が潰れようとしたときに、コルサコフ病という、過去のことを忘れっぽい、忘れた部分は嘘で埋める。ほら吹きで話のうまい、怪しげな画描きが、ふらふらと引っかかって来たので安堵した--という印象にならないか。
 ともかく、軍関係の捜査はなぜ消えたか。この全体が分からぬ限り、「帝銀事件」は、ただの「平沢事件」ではなかろうか。

帝銀事件は1948年におこった事件。

銀行の閉店直後の午後3時すぎ、東京都防疫班の白腕章を着用した中年男性が、厚生省技官の名刺を差し出して、「近くの家で集団赤痢が発生した。GHQが行内を消毒する前に予防薬を飲んでもらいたい」と偽り、行員と用務員一家の合計16人に青酸化合物を飲ませ12人を殺害。

現金16万円と、小切手、額面1万7450円を奪って逃走したというもの。

私が生まれる前に起こった事件であり、平沢被告もすでに死亡してしまっているので、このような小説からしか事件のことを詳しく知る術はないのだが、

読んでみて、清張が、平沢被告が無実であるという立場で書いているということを差し引いても、平沢を有罪にする合理的な理由が見出せない。

そもそも、犯行の手口からして、全員に飲ませることができるよう遅効性の薬品を使用した上で、手本として自分が最初に飲み、さらには「歯の琺瑯質を痛めるから舌を出して飲むように」などと伝えて確実に飲ませたり、第一薬と第二薬の2回に分けて飲ませたりと、巧みな手口を用いたこと一つをとっても、平沢が犯人とはなり得ない

こんなこと、薬物についての専門知識がなければ不可能である。

ところが平沢は薬物については全くの素人。

平沢を有罪とする唯一と言って良い根拠は「自白」。

しかし、何日間も拘束され問い詰められれば、やっていなくても「やった」といってしまうのが人間というもの。

しかも、裁判では平沢はその自白を撤回している。

「疑わしきは罰せず」という司法の大原則から考えれば、当然無罪となるべき事案であろう。

普通に考えれば、あの当時、このような薬物の専門知識が必要な犯行が可能なのは、軍関係者である。

捜査も当初は軍関係に集中していたのだが、途中からなぜか、その捜査は打ち切られている。

「何かがあったのでは」と勘繰りたくなってしまう。

ほとんどの関係者が死んでしまっている今となっては、真実は全て闇の中に葬られてしまった形だが。

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