« 白い巨塔(一)/山崎豊子 | トップページ | 白い巨塔(三)/山崎豊子 »

2012年8月 4日 (土)

白い巨塔(二)/山崎豊子

4101104344「じゃあ、里見さんが云いはった断層撮影はしないで、手術をやったわけなの」
 ケイ子は、驚くように聞いた。
「そうだよ、午前中に二つ手術があり、午後からすぐあの手術だったから、そんな暇はないさ、第一、そんな手間をかけなくとも、開腹してみて、胃噴門部以外の他臓器に癌の転移が見られず、手術も成功しているんだから、何も文句がないじゃないか、これで、エックス線写真の読影力は、里見より、僕の方が数段、上だということが新たに立証されたというわけだな、あっはっは」
 財前は、運転手が驚くほど大声を撒き散らして哄笑したが、
「でも、日頃、あんたから聞いている優れた内科医の里見さんが、あんなに断層撮影を要求して来はったからには、やはり何かがあるのやないかしら、手術が成功しても、眼にみえない何かが……」
 ケイ子は、女子医大の中退らしい神経の配り方で云った。

念願かなって教授になった財前は、里見の要求を無視し、断層撮影をしないで患者に手術を施す。

後々、これがもとで遺族から訴えられることになることになるなど夢にも思わず、自分の天才的な手術に酔い、愛人のケイ子にもそのことを自慢する。

人間にはミスや失敗はつきものである。

それ故に、仕事に真摯に取り組んでいる人ほど、慎重に慎重さを重ねて仕事を進める。

ところが、財前にはそのような姿勢はほとんど見られない。

やはり、財前にとって医療行為は自分の野望を果たすための手段でしかないのだろう。

財前は、この後、この手術前の断層撮影をしなかったが故に、患者を急死させてしまった、として遺族に訴えられる。

最後に彼は裁きを受けるのである。

ただ、現実の世界はどうなのだろう?

勧善懲悪という言葉がある。

最後には善は悪に勝つという考え方を表した言葉。

だが、現実は必ずしもそうではない。

むしろ、世の中を見渡せば「悪いやつほどよく眠る」という言葉の方がしっくりくる。

企業という組織の中でも、上ばかりを見ているヒラメ社員の方が出世していく。

同じ支店長であっても、部下の育成や顧客満足に真摯に取り組んでいく支店長より、部下に高いノルマを与え、「営業は結果が全て」と部下を追い込む支店長の方が短期的には成績を上げ出世していくケースが多い。

やがてはそのような人が社長になり、また自分と同じようなタイプの人間を昇進させていく。

こんな会社はいくらでもある。

世の中は理不尽なものである。

今、ロンドンオリンピックが開催されている。

連日、肉体を極限まで鍛えたアスリートたちが一定のルールの元、勝敗を競い合っている。

私たちが競技スポーツに惹きつけられるのも、「強い者が勝つ」「人より努力した者が勝つ」という世界に、ある種のすがすがしさを感じるからではないだろうか。

現実の世界がそうでないだけに。

« 白い巨塔(一)/山崎豊子 | トップページ | 白い巨塔(三)/山崎豊子 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 白い巨塔(二)/山崎豊子:

« 白い巨塔(一)/山崎豊子 | トップページ | 白い巨塔(三)/山崎豊子 »