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2012年8月 6日 (月)

白い巨塔(四)/山崎豊子

4101104360「只今、江川、中河、瀬戸口の三君を呼んで参りました」
 安西が云うと、始めて教授室へ入った三人は、そのものものしい雰囲気に呑まれるようにぎこちない一礼をした。
 財前は鷹揚に頷き、(中略)
「君たちに用というのは、この度、関西医科歯科大学の系列病院である舞鶴総合病院から、本学並びに本学系列校に医師の派遣を要請して来、特に私の主宰する第一外科には優秀な人材が結集しているとの評価から、三人の医師を要請されたので、慎重に人選を行なった結果、診療成績の優れた君たち三人に行って貰うことに決定した」
 有無を云わさず、人事異動を申し渡した。江川、中河、瀬戸口は一瞬、呆然としてたち尽した。顔面蒼白になった江川は、
「先生、あそこは洛北大学系の病院です、そこへ僕たちを……」(中略)
 退局を命じられることは、一般社会の通念でいえば、新聞の広告欄に、『左記の者、○月×日より当社とは何ら関係ありません、当社の名刺を持って参りましても当社とは何ら関係ありませんので、一切の責任を負いかねます』と告示されることと等しく、医師としては今後、一流大学の医局に勤める道を断たれ、研究の場と将来を失うことを意味していた。それを考えると、さすがの中河と瀬戸口も返す言葉がなかった。
「じゃあ、三人とも納得してくれたわけだな、舞鶴への勤務は十月一日付で発令するから、そのこころづもりでいるように」
 財前は冷やかに命じた。その顔には人事の絶対権を握る者の非情さが露骨に滲み、中河、瀬戸口、江川の三人は、黙って一礼して教授室を出た。

医療訴訟に勝訴した財前は、自分のことをよく思わない者たちに対し、次々報復人事を行う。

封建的で硬直化した組織ではよくあることだ。

遺族側の証人として立った里見は大学病院を追われ、前第一外科教授の東派と思われる研修医たちも次々と地方へ飛ばされる。

そもそも、「人事」という言葉には何となく暗いイメージがつきまとう。

「人事」という言葉から連想される言葉は、「闇」「報復」「不透明」「左遷」「根回し」「派閥」・・・等々、

人事は公平・公正であるべきとよく言われるが、そんなことを信じている人はほとんどいない。

人事は不透明な部分があって当たり前と多くの人が思っている。

しかし、人事の仕事に携わる者の一人として言いたいのは、いつまでもこんなことをやっていたら、その組織は競争社会の中ではやがては淘汰されてしまうということである。

せめて人事異動のときには説明責任を果たすことは最低限やってもらいたいものである。

医療の世界では「インフォームド・コンセプト」という言葉がある。

患者さんに対して説明責任を果たして同意を得るという意味だが、

患者さんに対してできて、どうして自分たちの組織に属する人に対してできないのか。

社員に対してもキチンとした説明責任を果たすというのは人事に携わる者の最低限の責務ではないだろうか。

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