転落弁護士/内山哲夫
弁護士は、スマートで格好いい仕事でも楽してもうかるボロイ仕事でもありません。むしろ、実に泥臭い、それも、とてつもなく責任の重い肉体労働なのです。そのうえ、誘惑の多い仕事で、常に転落の危険に付きまとわれているのです。
その理由は、弁護士の仕事が、裁判所や検察庁や警察署といった、善良なる一般市民には無縁の役所に土俵が設定されているからです。つまり、これらの役所の“お得意さん”は、ヤクザ、高利貸し、ブローカーといった裏筋の連中で、弁護士は、好むと好まざるとにかかわらず、彼らとかかわりを持つことになるのです(彼らの依頼を受けなくても、彼らを相手に交渉したり訴えたりしなければなりませんから)。そして、こうした裏筋の連中は、自分の代理人である弁護士を意のままに使おうと思って、札束の誘惑や甘い女体のにおいなどのわな民を仕掛けてくるのです。
本書は、元弁護士の転落の半生の記録である。
どのようにして道を踏み外し、実刑判決を受け、塀の中の生活を送るようになったのか、
そして、出所してからの誘惑の数々。
それらを赤裸々に綴っている。
この自伝を書くことになった経緯が興味深い。
恩師である弁護士から、「最近、道を踏み外す弁護士が多いので、それがどれほど惨めなものか、その転落記を書いてほしい、これこそが、君の、一般社会と法曹界、そして、君がかって勤めていた警視庁に対する最高の償いだ」と勧められたからだという。
弁護士というと、非常にステータスの高い仕事という印象が強い。
エリートで、格好良くって、もうかる仕事だというのが普通の人が弁護士に対して抱いているイメージである。
ただし、今は随分とこの事情が変わってきている。
司法制度改革で、毎年、司法試験合格者3000人を目指すとされている。
今のところ、その目標は達成されていないが、それであっても、今、弁護士の急増により、食えない弁護士が増えてきている。
それこそ、「司法試験には受かったものの」という訳である。
そうするとどうなるのか?
一つ、懸念されることとして、悪の道に走る弁護士が増えるかもしれないということ。
著者によると、転落した弁護士ほど惨めなものはないという。
弁護士が不祥事起こして転落すると、
事件屋になって悪事の片棒を担いでますます転落していくか、
無気力な隠居生活に入るか、
ホームレスになるか、
電車に飛び込んだり首をつったりしてこの世とおさらばしてしまうかだという。
弁護士の世界も外側から見るのと、内側から見るのとでは大きな違いがあるということであろう。