ブラザーの再生と進化/安井義博
「二十一世紀委員会」のそれぞれのチームでは、ブラザーの進むべき方向性をめぐって、非常に熱心な議論が交わされた。その結果、三つのチームが出した結論は、私としてはある程度予想していたことだが、それぞれがまったく違うものだった。
どう違ったのか。簡単に言うと、五十代のチームは、ミシンやタイプライターや家電などで過去に成功体験がある世代である。それだけに、その成功体験が災いしてか、安定を望むところがあって、やはり考え方が極めて保守的で、危機意識も薄く、現状肯定型の「改善」を提案した。(中略)
それに対して、四十代のチームは、過去の成功体験もあるが、これから十年、二十年を過ごす会社の将来に対する危機意識も持っていて、競争力を失った事業の整理を中心とする現状打破型の「改革」を唱えた。(中略)
そして、最も危機意識が強かったのが三十代のチームである。(中略)
もともと若い人たちは感度が優れていて、社会の変化や環境の変化に敏感である。それだけに、当時のブラザー工業が置かれた状況に対する危機意識は非常に強く、現状破壊型の創造的「革新」路線を打ち出してきた。具体的には、不採算事業からすべて撤退し、情報機器関連事業だけに経営資源を集中すべきだというものだった。
全体的にはやはり最も年代が若い三十代チームの結論が一番革新的だったが、四十代チームの結論の中にも、部分的には三十代チームより革新的な意見も含まれていた。そこで私は、三十代と四十代の双方の意見を採り入れた中間型を採用することにし、それに基づいてさらに議論を重ねてもらい、「二十一世紀のビジョン」(十年後のブラザーのあるべき姿)と題する最終答申を出してもらうことにした。
私が子供の頃、ブラザーといえばミシンだった。
しかし、今のブラザーにかつてのミシンメーカーの面影はほとんどない。
現在、ブラザーの主力商品はファックスやプリンターである。
それは創業から現在に至るまで改革に改革を重ねてきた証でもあろう。
何回も新規事業を立ち上げては頓挫し、撤退、そしてまた新たな事業の立ち上げ、と、これを繰り返してきている。
この改革のエネルギーはどこからきているのだろう。
その意味で、21世紀に向けてのビジョンを立てたときの話しは興味深い。
著者はこのとき、50代、40代、30代の3つのチームを立ち上げ、それぞれに改革案を出させたという。
出てきた内容は、50代チームからは、現状肯定型の「改善」案
40代チームからは、現状打破型の「改革」案
30代チームからは、現状破壊型の創造的「革新」案、だったと言う。
結局30代と40代のチームの中からいちばん革新的なものを採り入れビジョンとして完成させたという。
このことから言えることは、やはり革新は若い世代から出てくる可能性が非常に高いということ。
しかし、現状はどうだろう?
日本の国家や企業のリーダーは、ほとんどが60代70代。
50代のリーダーが選ばれれば若いと言われる。
改革や革新が掛け声だけで、なかなか進まないのも、こんなところに原因があるのかもしれない。
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