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2012年11月30日 (金)

日本の黒い霧(下)/松本清張

61i66cvxwfl__aa278_pikin4bottomrigh 帝銀事件捜査は、最初の段階では本筋の方向にむかっていたと思える。捜査要綱の中では、繰返し繰返し、帝銀の真犯人が医者や医療関係者であり、復員の陸軍衛生関係の公算が大であると強くうたっている。この事件に対して約五千人の容疑者が全国の警察で調査されたが、このいずれもが、捜査要綱に云っているような医薬関係者であった。
 しかし、ひとり平沢貞通だけには、この医療薬品業務関係がないのだ。彼は一介の画家であった。帝銀であれほど細密な計算や取扱いを行なったほど毒物に対する知識があるとは思われない。

下巻では、接収ダイヤ問題、帝銀事件、鹿地亘事件、松川事件、追放とレッド・パージ、朝鮮戦争が扱われている。

中でも一番印象的なのは、帝銀事件についての記述である。

帝銀事件については、本書を出すまえに、「小説帝銀事件」を著しているので、そこでも語られているのだが、本書で改めて推理を展開している。

粘着質では、と思えるような粘っこさだが、これが清張の真骨頂なのであろう。

そして読んでみると、明らかにおかしいのである。

どうして、毒物に対する深い知識がなければ起こし得ない事件の犯人に平沢が仕立て上げられたのか?

どうして、捜査は、初期の方針通り最後まで旧陸軍関係にむかわなかったのか?

どうして、毒物は「青酸カリ」であると断定されたのか?

帝銀に使われた毒物が青酸カリであったという決定的な実証は無い。

しかも、最初、検事は「青酸化合物」と云っていたが、いつの間にか、途中でそれが「青酸カリ」そのものとなってしまっている。

百歩譲って、毒物が「青酸カリ」だとしても、平沢がどうしてそれを入手していたかの経路さえ分っていない。

普通に考えれば、この事件の犯人は軍関係者に特定されるだろうに、捜査が軍関係にゆかなかったのはなぜか?

帝銀の真犯人は軍の衛生関係者に直結する、と考えながら、なぜ、医学知識ゼロの平沢に向かわねばならなかったか?

まさに「なぜ」「ナゼ」「Why」である。

とうしてこれで平沢を犯人だと断定できたのか?

まったく合理性がない。

これだけ疑問だらけなのだから、「裏に何かあるのでは」と勘繰りたくもなるもの。

事実、清張は本書でGHQが絡んでいると強く主張している。

「疑わしきは罰せず」という刑事裁判における原則から言えば、無罪となってしかるべきであろう。

まさに「日本の黒い霧」と呼ぶにふさわしい謎に包まれた事件である。

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