無印良品の「改革」/渡辺米英
松井は社長就任直後に「今後はカリスマ型の経営から駅伝型の経営に転換を図る」と語った。木内が「創業者」の強力なリーダーシップを発揮し、同社を大企業に成長させた後、新たにバトンを託された松井は、創業者とはまた違った経営スタイルを掲げたのである。
松井の言う「駅伝型の経営」とは、「シンプルなルールに基づいて組織を動かす仕組み」の徹底である。
独自のブランド戦略でどこまでも伸び続けると思われた無印良品は2000年に突如売上高を大きく落とす。
本書では、同社がその後会社を挙げて様々な改革を断行し、見事2006年に過去最高益を達成するまでの過程を綿密に取材している。
その内容を要約すると次のようになる。
同社はナショナルブランドが持つさまざまな無駄を省くことで、良品を低価格で提供するという「ブランドを否定したブランド」を打ち出す。
そしてそれを支えたのが「わけあって、安い。」という衝撃的な広告コピー。
無印良品のコンセプトはそのネーミングにすべてが凝縮されていた。
それは、生活者の立場に立って商品の原点を見つめ直し、実質本位の商品をより安く提供する、というものだった。
無印良品のコンセプトと感性は時代を凌駕し、創業時から20年近い間は進化や仕組みを考えなくても売れ続けた。
ところがスタートからちょうど20年が経過したころに、良品計画の業績は突然の失速を見せる。
この間、ブランドに磨きをかけるのを怠ってきたことが、業績低迷の大きな要因だった。
更にコンセプトや感性を生かし「進化」させる「仕組み化」の「実行」が求められたときに、ひたすら拡大路線に走ってしまったのも大きな失敗要因。
「仕組み化」ができていなかった一つの例として、物づくりの中身や過程が「見えない」というところにあらわれていた。
そのころまでは、どこの工場にどれだけ発注して、生地や付属品はどうか、前年のデータは、といったことはすべてMDの頭の中だけにあった。
ほかの人にはそれが見えない。
だからどんなものがいつ出来上がってくるのかは、本人にしか分からなかった、と言う。
そこでお手本にしたのが、小売業のなかで最も標準化が進んでいたしまむらだった。
「お百度参りをして教えを受けるのが一番手っ取り早い手段」だと判断し、しまむらの本社を訪ねて、同社の店舗開発の仕組みをつぶさに学ぶ。
そこで見たのが、多岐にわたる項目で構成された「出店基準書」である。
それを基に総合的に判断して、基準を満たさない物件には出店しないという、店舗開発のバイブルだ。
良品計画には従来から、そういった基準書のたぐいがなかった。
もう1つは、それを生産や販売、在庫などの計画につなげる仕組みづくり。
これによって、以前は各個人のパソコンや頭の中に入っていたものが、共有化できるようになる。
このような取り組みを通して、無印良品は業績回復を果たす。
キーワードは「進化」と「実行」と「仕組み化」。
特にカリスマ型の創業経営者から経営を受け継ぐ2代目経営者には参考になる事例が多く記載されている本である。
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