僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。/出雲充
鈴木に「こういうわけで、ずっと仙豆を探してるんだけど、ないんだよね」と話したところ、鈴木は「仙豆ですか?そんなものはありませんよ。あれはマンガだけの話でしょう」ときっぱりと言う。それを聞いてがっくりきた僕が、
「やっぱりそうか。仙豆なんて夢の食品、現実にあるわけないよなあ・・・・・・」
と諦めムードでつぶやいたところ、鈴木は何ということもなくあっさりとこう言った。
「でも、ミドリムシなら仙豆に近いんじゃないですか。植物と動物の間の生き物ですから」
ミドリムシ、という言葉を聞いた瞬間、僕は雷に打たれるような衝撃を受けた。もちろん自分もミドリムシという微細藻類について名前は知っていた。中学の理科の教科書で写真も見ている。だがその瞬間まで、ミドリムシが仙豆になりうる存在であるとは、まったく考えもしなかった。
本書の著者、出雲氏は、2012年に東証マザーズに上場したベンチャー企業、ユーグレナの創業者。
どんなに順調に見える起業であっても、全て順調というわけにはいかない。
幾多の壁を乗り越えて初めて成功を味わう事ができるもの。
そして、そのためには「絶対に成功させてやる」という折れない心が必要になる。
出雲氏の場合、それを支えたのは強烈な原体験ではなかったかと思う。
まだ出雲氏が学生だったころ、世界から栄養失調をなくす計画を真剣に考えていたという。
あるときから思うようになったのが、「地球のどこかに仙豆のような食べ物があったらいいのにな」ということだった。
「仙豆」というのは、『ドラゴンボール』に登場する食べ物。
1粒食べればそれで10日間は何も食べずに飢えをしのげ、どんなに体が傷ついていても、一瞬で完璧に回復するという魔法の食べ物。
そんな夢のような食べ物が「あったらいいな」と思っていたのが、ミドリムシに出会ったとき、「これだ」と思ったという。
ミドリムシは植物と動物の両方の性質を持っているので、両方の栄養素を作ることができる。
ミドリムシを大量生産し食料資源化ができれば、将来、日本に食料危機があったとしても、輸入食料に頼らずに必須栄養素を賄うことができる。
「将来、必ず地球温暖化が大きな問題となる」ということが言われ始めていて、そうなったときはミドリムシにCO2を減らしてもらうことができる。
はるか5億年前からCO2を吸収してきたミドリムシは、高等植物よりも圧倒的にCO2の処理能力が高いので、森林が減少した分の酸素の生産を補うことが可能になる。
さらに、世界人口は爆発的に増えることが予測されているが、ミドリムシを増産することで、地球環境を維持しつつ、世界の人々は健康に暮らすことができるかもしれない。
と、このようにすごいポテンシャルを持っているミドリムシなのだが、問題は誰も培養に成功した人がいないということだった。
出雲氏の戦いは、この培養を成功させるための戦いだったといっても過言ではない。
やがて奇跡的にミドリムシの培養に成功した出雲氏はついに東証マザーズへの上場を成し遂げる。
こんなベンチャーがもっと出てくれば日本はもっと元気になるのではないだろうか。