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2013年1月22日 (火)

小説 盛田昭夫学校(上)/江波戸哲夫

51th23txytl__aa278_pikin4bottomrigh ブローバー社の若いマネジャーは盛田の言葉を聞いて信じられないという顔をした。
 「10万台もの大口注文を断るのか」
 彼は手を替え品を替え盛田を口説こうとしたが、盛田は揺らがなかった。とうとう彼は感情を害してこういった。「わが社は50年かかって、ブローバーという広く世に知られたブランドを確立したのですよ。それを利用しないのは愚かなことだ。この広いアメリカで誰も知らないSONYなんてブランドが売れると思っているのか」
 このとき盛田は後に伝説として語り継がれるようになる台詞で反論した。「50年前には、貴社のブランドも、いまのSONYと同様、誰も知らなかったでしょう。わが社はいまその50年の第一歩を踏み出そうとしているのです。50年後にはSONYも貴社に負けない有名ブランドになっているでしょう」
マネジャーは肩をすくめ、もう盛田を説得しようとはしなかった。

SONYというブランド名が生まれてまもなく、盛田はトランジスタラジオの売り込みにアメリカ中を飛び回っていた。

やがて、苦労の甲斐あって、アメリカのブローバー社からの引き合いがある。

ブローバー社を訪れた盛田に、若いマネージャーは「御社のトランジスタラジオは完璧です。2年間で10万台、買う契約を結びたい」ともちかける。

「そんなに大量に買ってくれるのか」と喜んだのも束の間、盛田はその次の言葉に衝撃を受ける。

「ただし、ブランドは当社のものをつけてもらいます」

半信半疑の期待感にたちまち冷水が浴びせられる。

その申し出は盛田の世界戦略とまったく相容れないものだった。

東通工をフィリップスに並ぶ世界企業にするために、知恵を絞ってSONYというブランド名を生み出したのに、

ブローバーの名前で売られるのでは、その努力が水の泡となる。

盛田は即断は避けてホテルに戻り、本社に電報を打つ。

「断るのはもったいなし、注文を受けよ」と直ぐに返事がくる。

しかし、盛田はホテルの部屋で悩み抜いた挙句、断ると心を決める。

当時のSONYの台所事情を考えると、喉から手が出るほど欲しい契約だったにちがいない。

その契約を盛田は独断で断った。

振り返れば、この決断とスピリットがあったからこそ、世界のSONYが生まれたと言ってもよい。

まだ今ほどブランドの価値が重要視されていなかった中での盛田の決断は、先見の明があったといってよいだろう。

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