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2013年1月24日 (木)

新しい市場のつくりかた/三宅秀道

412o5mzcrdl__aa278_pikin4bottomrigh あまりにも有名なエピソードを例に挙げます。戦争直後の浜松で、町工場の名物親父社長が、闇市に買い出しに行く奥さんのために、旧軍の遺した通信機用のエンジンを自転車につけてあげた。おかげで奥さんは、頑張って自転車をこがなくても楽に買い出しに行けるようになった。それを見たご近所の人たちも欲しがったので、人を雇ってもう少し手広く商売にした。この奥さんが本田さちさんで、ご主人が宗一郎さんです。世界のホンダも、最初はここから始まったわけです。
 この話の面白さは、「バタバタ」と呼ばれたこの原動機付き自転車の最初のモデルが、通信機用の小型エンジンや湯たんぽの燃料タンクを使っていたという、既存の技術の寄せ集めと転用であって、さほどの技術革新というほどのことではないということです。しかしこれがユニークなのは、「女性でも扱える小型人工動力輸送機関」として、日本の家庭生活を変革するインパクトを持ち、それがちょうど当時の日本社会が望んでいた新しいライフスタイルだったということです。つまり、文化の新開発、革新だったのです。

このエピソードは、今の日本企業の課題を端的に示している。

新聞の経済面やビジネス雑誌には「ものづくり」という言葉が頻繁に登場する。

「日本の産業はすごい技術が支えている」という記述がやたら目につく。

日本の強みがものづくりであること、確かにこれは正しい。

ただ、問題は、日本がいまだにこのような技術神話から抜け出せていないところ。

日本がいまの状態から脱け出すためには、仮にそれが正しかったとしても、一旦それを忘れ去ることが必要。

そうしないと、「技術的な差別化」のことばかりが議論の対象になってしまう。

どんな技術も、なんらかの用途に結びついて価値を産まないうちは、技術者の単なるプライドにすぎない。

その技術が本当に価値あるものとなるためには、それを必要とするライフスタイルや文化が必要になる。

今、多くの企業に求められているのは、世界に今までになかった、新しい文化やライフスタイルを創造する力である。

自分達がもっている技術を必要とする新しい市場と顧客の創造である。

しかし、これは何も新しい概念はない。

はるか以前から、ドラッカーは企業の使命とは「顧客の創造」である、と言っている。

技術をより高めるために必要なのは問題解決能力、

しかし、新しいライフスタイルや文化を創り出し、新しい市場や顧客を創造するために必要なのは問題発見・設定能力である。

人々が普段の生活の中で、何を求めているのかを発見しそれをカタチにする能力である。

日本人は与えられた問題を解決する能力は優れている。

しかし、何もないところから問題を発見する能力はそうでもない。

むしろ、苦手科目と言える。

しかし、今こそ、この苦手科目克服に真剣に取り組むべきだ。

日本はその創造性を、問題の解決ではなく、問題の発見・設定に向ける時代が来たということが言えるのかもしれない。

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