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2013年2月16日 (土)

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 /米原万里

Photo ヤースナがまた突然口ごもった。顔が歪んでいる。
「ヤースナ」
 思わず、肩を抱きしめた。ヤースナは、私の右肩に顔を乗せたまま黙っていた。でも、ヤースナが全身で泣いていることが分かった。涙も流さず、声にも出さずに泣いている。カラカラに乾いた声でポツリと言った。
「マリ、私、空気になりたい」
「…………」
「誰にも気付かれない、見えない存在になりたい」
 何か言ってあげなくてはいけないと思うのだが、胸を突かれた私は失語症に陥ってみっともなく黙っているだけである。クラス一番の優等生で、美人で、いつも冷静沈着なヤースナが、ここまで追い詰められているとは思わなかった。涙が溢れてきて仕方なかった。

本書は、著者が9歳から14歳まで少女時代の5年間、チェコスロバキアの首都プラハのソビエト学校時代の思い出と、特に当時仲のよかった3人、ギリシャ人のリッツァ、ルーマニア人のアーニャ、ユーゴスラビア人のヤスミンカに30年後に再会したときのことが書かれている。

当時のソ連は当然、共産主義、そしてプラハもその支配下にあった。

そして、その後ヨーロッパは激動の時代を迎える。

プラハの春、共産主義の崩壊、チャウシェスク政権の崩壊と公開処刑、ユーゴスラビアの内戦・・・。

これら歴史上の出来事に翻弄されながら生き延びてきた3人と著者が再会を果たす場面は感動的だ。

そのことが生き生きと記されている。

本書はエッセイの形をとっているが、単なるエッセイではない。

東欧の人々の生きた現代史である。

しかし、これらの人々の話しを読むと、日本人が平和ボケと言われていることがよく分かる。

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