飽きる力/河本英夫
「明日考えましょう」
おそらくこの映画全体のなかでも最も素晴らしい場面の一つであり、性格の強いビビアン・リーのコメディ性がよく出た場面です。パニックになったら、「明日考えましょう」というのは、「ビビアン・リーの鉄則」と呼んでよいほど貴重なやり方なのです。
自分の境遇を嘆いたり、自分のあり方を反省したり、パニックになってあわてて動いたりしないのです。嘆いても何も変わらず、反省しても事態は改善せず、パニックになって動いても、芳しい結果は出ないのです。そうしてもがく自分に飽きているのです。そこで、「明日考えましょう」と言って、隙間を開くのです。こういうパニックのさなかのおおらかさが出てくるのも、飽きるという繊細な感性が働いているからなのです。
映画「風と共に去りぬ」のラストの場面。
自分の夫、レットバトラーに去られ、絶対絶命の状態に陥ったスカーレットの口からでた「明日考えましょう」という有名なセリフ。
これを著者は「飽きる力」だと評価する。
「飽きる」という言葉からは私達はあまり良い印象を持たない。
「飽きっぽい」というと、何をやってもモノにならないダメ人間を指すことが多い。
確かに何事もある程度続けなければ、何一つ身につかないのは事実である。
著者もそのことを否定していない。
むしろ、何事も最低限の基礎トレーニング期間として、三カ月はどうしても必要だと言っている。
ただ、「飽きる」と「あきらめる」は全然違う。
「あきらめる」というのは、たとえば、きついところで競っている試合で、どうも今日はもう追いつけないといって自分から集中を切ること。
そのほうが楽だから。
これはあきらめること。
つまり、粘り強さを自分で断念するということ。
これに対して「飽きる」というのは、
物事に没頭している自分の状態を客観視し、少し距離を置き、角度を変えて見たり、やり方を変えてみたりすること。
すぐにがんばりの態勢に入ったり、すぐにいつものパターンの作業に入るのではなく、少し距離をとって選択の幅を広げること。
実際、私達は、日常生活や職場で、さまざまな作業を行いながら、ふとした瞬間に、何かしっくりこない、何かもう少し違うやり方がある、と感じることがしばしばある。
もう少し工夫ができるはずだと感じることも多々ある。
そうした能力が、本書で取り上げている「飽きる力」である。
飽きることは、いまだ活用していない自分自身の能力をうまく発揮していくための貴重な通路だと言えるかもしれない。
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