現場力の教科書/遠藤功
ビジョンや競争戦略を指し示すだけでは、厳しいグローバル競争に打ち勝つのはますます難しくなってきています。新興国からは日本企業を凌駕する規模の大きな競争相手が出現し、日本企業に対して「追いつけ、追い越せ」と熾烈な同質競争を仕掛けてきます。
たとえ独自の競争戦略を打ち出しても、それがユニークであればあるほど、模倣しようとする競争相手が出現します。たとえば、有望な新事業を開発したり、斬新な商品を生み出しても、特許などでそれを守らない限り、それに追随しようとする動きが必ず現れます。
もちろん、誰よりも先駆けて行うことによる「先行者メリット」はありますが、逆に先行者が苦労して手掛けた新事業や新商品を、追随者がいとも簡単に模倣してキャッチアップする、さらには追い抜くという事例も数多くあります。
つまり、ビジョンや競争戦略という要素だけで、持続的な差別化や優位性構築を実現するのは、ますます難しくなっているのです。
今、書店の経済ビジネス書コーナーを見ると、アベノミクス関連本であふれている。
擁護論、反対論、慎重論と様々だが、いずれにしても、企業経営をする上で大事なことは、そのようなことに一喜一憂して振り回されることなく、しっかりと足腰を鍛え、筋肉質の組織を構築することではないだろうか。
さて、本書の著者はこの厳しい競争に勝ち抜くための「現場力」の必要性を説いている。
そして「現場力」とは「オペレーション」である、とも述べている。
経営を単純化してとらえると、「ビジョン」「競争戦略」「オペレーション」という3つの要素で成り立っていると言える。
まず企業経営者は「ビジョン」を明確に示さなければならない。
「自分たちはなぜ存在するのか?」という「Why」を明らかにし、働く人たちが共感し、ワクワクするようなビジョンを経営者が掲げることは経営の出発点と言えよう。
しかし、ビジョンだけでは競争に打ち勝つことはできない。
他社と差別化するためには「競争戦略」がなければならない。
企業は常に競争にさらされている。
そして激しい競争に勝ち抜くためには、自分たちの強みは何かを明らかにし、環境変化に適応し、勝ち目のある分野に、自社の「ヒト」「モノ」「カネ」という経営資源を投入する必要がある。
その方向性を打ち出すのが競争戦略である。
ところが、今の時代、戦略だけでは差別化することは難しい。
一昔前であれば、斬新なビジネスモデルを構築すれば数年間は競争優位を保つことができた。
それが今では、そのビジネスモデルが斬新で画期的であればあるほど、すぐに競合他社が真似をしてくる。
しかもその期間は数カ月単位である。
そこでオペレーションが重要になってくる。
オペレーションとは何か?
日常的なルーチン業務のことだと捉えている人が多いが、そうではない。
軍事用語としてのオペレーションは作戦実行、すなわち生死を賭けたバトルを意味する。
また病院では人の命を救うための手術をオペレーションと呼んでいる。
つまり、オペレーションとは「命を賭けた戦い」なのだ。
戦争や病院で、オペレーションが弱かったり稚拙であれば、間違いなく死者や犠牲者が出る。戦にも負けてしまうだろう。
企業経営も同様である。
オペレーションが弱い企業は、戦略を結果に結びつけることができず、多くの犠牲を払わなくてはならない。
熾烈な競争を勝ち抜くことなどできはしない。
ではそのオペレーションを担っているのは誰か?言うまでもなく、それは「現場」である。
企業の現場こそが、経営戦略を日々の業務に落とし込み、粘り強くそれを実行することによって、経営戦略は実現され、結果に結びつけることができるのである。
経営戦略を絵に描いた餅にしないためにも、今こそ、この現場力に目を向ける必要がある。
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