対中戦略/近藤大介
アメリカという世界唯一の超大国は、日本と60年以上に及ぶ同盟関係にある〝兄貴分〟なので、いつも日本の見方になり、日本を守ってくれる--多くの日本人はそのように信じているのではないか。これは大いなる錯覚というものだ。
「アメリカは過去も現在も未来も、自国の国益に合致する場合にのみ、日本を助けるに過ぎない。かつ東アジアで圧倒的に重視しているのは、日本ではなく中国である」
これはアメリカ国務省の元高官が、以前、私に教えてくれた名言だ。
中国との尖閣諸島の問題が先鋭化する度に、アメリカが守ってくれるかどうかが、議論の対象になる。
日米安保があるから守ってくれるに違いない、と多くの日本人は思っている。
確かにそのとおりなのだろうが、アメリカはあくまで自国の国益に合致する場合のみ日本を助けるのだ、ということを覚えておく必要がある。
そして、アメリカが重視しているのは日本ではなく中国であるということはしっかりと認識しておく必要があるのだろう。
歴史をひもとけば、アメリカの中国重視政策は、いまに始まったものではない。
アメリカは、イギリスとの独立戦争が集結した1784年に、早くも中国との交易を開始している。
以後、アメリカ商船の中国ラッシュが始まる。
19世紀前半には、アメリカにとって中国は、既にイギリスに次ぐ第二の貿易相手国にのし上がっている。
1937年に日中戦争が始まると、アメリカは中国から銀を大量に買い続け、戦費を下支えし、その上7000万ドルも供与し、279機もの戦闘機を与えている。
つまりアメリカは常に最重要だった中国の権益を侵すなと言っている。
そして日本がこのことを突っぱねたことから太平洋戦争に突入した。
確かに言われてみれば、その通りなのである。
このように振り返ってみると、日米安保があるからと、安心している場合ではないと著者が言うことがよく分かる。
著者は、出版社の駐在員として、中国で3年に及ぶ徹底した現地取材をしている。
それだけに日本に住んでいたのではわからない「中国の現状」をリアルに教えてくれる。
もっと日本は戦略的に動く必要があるということであろう。
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