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2013年6月21日 (金)

イノベーション・オブ・ライフ/クレイトン・M・クリステンセン

Photo  報酬は間違いなく衛生要因だ。これをしっかり理解しておく必要がある。報酬をどんなに工夫したところで、せいぜい社員が報酬のせいで同僚や会社に不満をもたなくなる程度でしかない。これはハーズバーグの研究が与えてくれる、重要な洞察だ。仕事の衛生要因をただちに改善しても、仕事を突然好きになるわけではない。せいぜい、 嫌いではなくなるのが関の山だ。「仕事に不満がある」の反対は、「仕事に満足している」ではなく、「仕事に不満がない」だ。この二つはけっして同じことではない。安全で快適な職場環境、上司や同僚との良好な関係、家族を養えるだけの給料といった衛生要因に配慮するのは大切だ。これらが満たされなければ、あなたは仕事に不満をもつようになる。だがそれだけで、仕事を心から好きになれるわけではない。ただ嫌いではなくなるだけだ。

本書の著者、クレイトン・クリステンセン教授は、毎年ハーバード・ビジネススクールで受けもつ講義の最終日に、ビジネスや戦略ではなく、どうすれば幸せで充実した人生を送れるかについて、学生たちと話し合う機会をもっている。

きっかけは、自分の同級生や教え子に、卒業後数十年経って再会して話を聞くと、彼らが必ずしも幸せな人生を歩んではいないという事実を知ったことによる。

職業人として成功を収めながらも、明らかに不幸せな人たちが多くいた。

社会的成功という仮面の陰で、多くの人が仕事を楽しんでいなかった。

離婚や不幸な結婚生活の話もよく聞いた。

ここ何年か子どもたちと口もきかず、大陸の両端に分かれて住んでいるという同級生もいた。

卒業以来、三度めの結婚をしようとしている女性もいた。

優秀であるがゆえに失敗してしまう既存企業と同じで、才能にあふれた、達成動機の高い若者たちが、優秀であるがゆえに不幸な人生を歩んでしまう―教授はそんな同級生や教え子を、数え切れないほど見てきた。

この人生のジレンマを乗り越える手助けをするために、本書は書かれた。

著者は以下の3点の論点について、自らの主張を展開する。

1. 幸せで成功するキャリアの気づき方とは?

2. 幸せの拠り所となる家族との関係のありかた、築き方とは?

3. 誠実な人生を送り、罪人にならずにいるには?

人は何のために働くのだろうか?

単純に考えれば、お金を得るためだろう。

では人はお金を得さえすれば満足できるのだろうか?

仕事を楽しめるのだろうか?

ここで著者はハーズバーグ博士の「衛生要因と動機づけ要因理論」を用いて、そのことを説明している。

ハーズバーグによれば、仕事の満足感が連続的に変化していく――つまり一方の極の非常に満足度の高い状態から、その対極のまったく満足していない状態までが、連続的につながっている――という一般的な前提は、人間の心の働きを正確に表していないという。

満足と不満足は、実は一つの連続体の対極に位置するのではなく、別々の独立した尺度なのだ。

たとえば自分の仕事が好きでもあり、嫌いでもあるという人がいてもおかしくない。

この理論は、衛生要因と動機づけ要因という、二種類の要因を区別する。

仕事には、少しでも欠ければ不満につながる要因がある。

これを衛生要因と呼ぶ。

ステータス、報酬、職の安定、作業条件、企業方針、管理方法などがこれにあたる。

たとえば、部下を自分のいいように使う上司がいないことや、快適な職場環境は重要だ。

人は衛生要因が満たされないと、不満を感じる。

仕事に不満を感じないようにするには、満たされていない衛生要因に働きかけ、改善する必要がある。

しかし、それによって満足感が高まり、やる気がでるわけではない。

単に不満がなくなるだけである。

この理論のおもしろいところは、報酬が動機づけ要因ではなく、衛生要因に含まれる点だ。

つまり社員にインセンティブや報酬を与えれば、社員はやる気を出して働くというのは間違っているということ。

報酬を上げれば、ある程度の不満は解消するだろうが、やる気を出して働くかどうかは別次元の話だということ。

不満の解消イコール満足ではないのである。

バブル崩壊後、大企業を中心に導入が進んだ成果主義が失敗したのも、このことの理解不足によるところが大きい。

つまり、馬の鼻先にニンジンをぶら下げれば、馬は必死に走るだろう、という仮説に基づいた賃金制度をつくってしまったことによる。

成果を上げた社員には多額な報酬を与え、そうでない社員の報酬を下げた結果、社員はやる気を出すどころか、疲弊していった。

別名「馬ニンジン方式」の賃金制度はことごとく失敗した。

そして著者は何を自分の仕事とするかは衛生要因ではなく、動機づけ要因(責任感、達成感等々)で選ぶべし、と主張する。

日本はこれから超高齢化社会を迎える。

60歳で定年退職し、あとは年金をもらって悠々自適に暮らすというライフスタイルのモデルは崩壊するのは明らか。

場合によっては一生仕事をしなければならなくなるかもしれない。

今後、人生における仕事の比重が益々増してくるであろう。

ということは、幸せな職業生活を送らなければ、幸せな人生も送れないということ。

仕事にお金以外の何を求めるのか?

このことを、ひとり一人が真剣に考える時がきているのではないだろうか。

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