執事のダンドリ手帳/新井直之
海外からバカンスで来日されたお客様を数週間お世話させて頂いた時のことです。
滞在最終日、空港に向かう1時間前にふと「お土産にカルピスウォーターが欲しいんだ。500本くらい用意できないかな?」と、お客様がおっしゃいました。
富豪と呼ばれるようなお客様になると、お付き合いされる方々も普通の人ではありません。ですので、大抵の日本のお土産などすでにご存知なのです。
そのため、かえってカルピスウォーターのような飲み物や駄菓子などの「日本に行かないと買えないちょっとしたもの」がお土産に喜ばれるのだと言います。
とは言え、出発の準備もあるので今から調達に出かけることができません。
しかも、家を出れば空港までたったの2時間。
いったい、どうすればいいのか?
そんな時にダンドリの力が発揮されます。
英国の映画を見ていると、貴族やお金持ちの家に執事という職務の人たちが登場することがよくある。
ただ、日本人にとって執事という仕事はなじみが薄い。
執事は具体的にどんな仕事をしているのかと言うと、基本的には何でも屋だと言ってよい。
世間で「お金持ち」と言われるような人たちの要望に最大限応えることが執事の仕事である。
本書はそのノウハウをまとめたものだが、普通の仕事をする人たちにも参考になることは多い。
例えば、上司から無理な仕事を命じられるということはよくあること。
組織の中で働いている者の宿命で、無謀な業務命令であっても、結果を出さなければならない。
ここでは、著者が「お土産にカルピスウォーター500本くらい用意できないか」と言われた時の例が載っている。
このとき、著者がまず考えたのは、「どこでなら、最も効率よく買うことができるだろうか?」ということ。
すると、まずはスーパーやコンビニなどに商品を卸している問屋さんが一番だろうということになる。
そこでいくつかの卸業者に電話をかけてみるが、「個人のお客様にはお売りできません」と断られる。
そこで、2つ目の案。
「卸業者以外で、大量に仕入れる店を見つける」。
在庫を比較的大量に持っていて、個人でも買うことができる場所ということで思いついたのが「ドン・キホーテ」。
さっそく電話したところ、在庫が足りない。
残った3つ目の選択肢は「空港までの道の途中で買い集める」というもの。
空港までの道のりで、立ち寄れそうなコンビニをリストアップし、コンビニに寄るたび、10~20本くらいを買い集めながら、何とか「500本」の収集に成功したとのこと。
ここで言っていることは、上司やお客様から無謀とも思えるような要求をされたとき、パニックに陥らないで、対策をいくつか考え、優先順位をつけ、順番に実行すればよいということ。
多くの人はこうした場面に出会うと慌ててしまう。
「急にカルピスウォーター500本なんて無理だ」と、ここで思考がストップしてしまう。
あるいは、「そうだ! コンビニならあるかもしれない」と思いついた瞬間に、それがベストの策だと思い込んでしまう。
その作戦が失敗したら、万策尽きてパニックに陥ってしまう。
重要なのは、トラブルが起きた時に急いで動こうとするのではなく、非常事態だからこそ落ち着いて一呼吸置くこと。
そして、対策をいくつか考えてみて、順次実行していくこと。
そうすれば、問題を解決することができる。
言われて見ればその通りだが、実際にその場面に遭遇するとパニクってしまう人が多いのではないだろうか。
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