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2013年8月20日 (火)

大地の子(三)/山崎豊子

Photo 「あつ子、母ちゃんは、お前がその右手に火傷をした時、死んでしまったんだよ、父ちゃんは戦争に行ったままだから、戦死したかどうか解らない、お前があつ子、私がカッチャンで、二人が兄妹だということだけが今、はっきりしたのだ、両親の名前も開拓団の名前も解らないのだ、だが、早速、県の外事科から紅十字会を通して、日本政府に父ちゃんの消息を調べて貰うことにするよ」
「兄ちゃん、どんな遠うても、日本の土を一度だけでも、踏んで死にたい、母ちゃんと父ちゃんの国、日本を一目だけでも、見て死にたい」
 もう長くはなさそうだと云われている病んだ体で、一心の両腕に取り縋った。
「あつ子、お前が日本へ行けるようになったら、兄ちゃんが背負うてでも連れて行って、日本を見せてやる、見せてやるとも……」
 一心は、狂ったように妹の体をかき抱き、嗚咽しつつ、人間の運命を思った。自分は陸徳志という慈悲深い第二の養父に恵まれて育ったが、妹は戦争孤児として日本の大人たちの犯した罪を、幼い体で償い、農村で牛馬の如く酷使されながら、生きて来たのだった。できることなら、自分の生命を削ってでも、不倖せな妹に与えてやりたかった。

陸一心が幼いころ生き別れになった妹と中国の農村で再会したとき、妹は既に瀕死の状態だった。

やがて妹は一心の必死の努力も虚しく死んでしまう。

フィクションとは言え、多くの中国に残された戦争孤児が似たような境遇に置かれていたことを想うと、複雑な思いにかられる。

多くの戦争孤児は、これと同様に、貧しい農家に労働力として買われ、家畜のごとく酷使されてきたのだろう。

元はといえば、国の政策に根源があるわけだから、国家とは何かということを改めて考えさせられる。

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