組織に負けぬ人生/日下公人
そうした日本軍の中にあって今村均が率いる軍団だけは、この南寧でもジャワでもラバウルでも常に全軍的な勝利をつかんでいることは、いろいろ幸運な事情があったとしてもやはり注目すべきことだと思われる。その原因としては、今村均の指揮が常に合理的・現実的で、余計な美学をふくむ割合が少なかったことがやはり大きいと思われる。
旧日本軍の中で名将と呼ばれた今村均がいた。
その人柄、エピソードは今日でも旧占領国の現地住民だけでなく、敵国であった連合国側からも称えられている。
かつて、日本人は状況が困難になるとその合理的な解決を考えるよりも、とかく精神的・抽象的になり神がかり的な〝純粋の美学〟と〝破滅の美学〟に逃避するところがあった。
戦争が敗戦つづきで勝利の見込みが遠くなった頃にはこうした純粋の美学や破滅の美学は一層勢力を拡大していった。
兵士が兵器に敬礼させられたり、追いつめられるとすぐに全軍を挙げたバンザイ突撃を敢行した。
海軍では艦長が艦と運命を共にして死ぬという美学があった。
零戦その他の搭乗員も、飛行機と運命を共にするのが美とされパラシュートをつけない風習があった。
こうした日本軍の体質に対して、今村均は相当異質である。
まず、彼は勝つことを第一に考え、そのために必要なことのみを合理的に追求して思考を組み立てていった。
個人的・心情的な潔さとか晴れがましさなどは二の次、三の次にしてひたすら全軍の勝利を実現しようとする。
究極の目的を見失わないのは一軍を指揮する将軍の大事な資質である。
それができない上級管理職はすぐに局部的な損得や他人の評判などを気にして、大局観を失い〝純粋の美学〟に頼って、結局は〝破滅の美学〟へと歩を進めることになる。
これは企業経営でも同じことである。
旧日本軍と同じような体質をいまだに保持している企業が多く存在する。
経営の業績が悪化すると、精神主義がやたらに目立つようになる。
その結果、ますます傷口を広げ、企業はおかしくなっていく。
究極の目的をどんな時にも見失わず、局面局面はあくまで合理的・現実的に判断していく。
これは多くのリーダーに求められていることではないだろうか。
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