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2013年9月16日 (月)

黒革の手帖(上)/松本清張

Photo「この黒革の手帖を国税局に提出しますと」
 原口元子は、顧問弁護士が複写を読み終ったのを見て云った。
「架空名義の預金者たちが迷惑されるばかりでなく、東林銀行は大蔵省銀行局からの受けが悪くなりましょうね。また東林銀行はこんな自粛を申し合せた全国銀行協会に迷惑をかけることになりますわ。先生もご承知のように、大蔵省では架空名義預金や無記名預金が脱税の逃げ場所と睨んで廃止したいのですが、預金の減少をおそれる銀行協会は自粛を口実に抵抗しているんですからね」
 顧問弁護士は、老眼鏡をはずし、サックにおさめながら、沈黙した支店長と次長にゆっくりと云った。
「こっちの負けだね、支店長。原口くんの条件をまるごと呑むしかなさそうですよ」
 支店長の唇の端は痺れたようになっていたが、しばらく思案するようにうつむいたあと、諦めたように云った。

松本清張の悪女モノの小説。

主人公、原田元子は、銀行の目立たない年増の行員だったが、勤務中、架空預金口座を手帖に転記し、それを脅しの道具に使う。

横領した金額は7568万円。

これをもとに元子は銀座でバーを開業し、そのママになる。

そもそもやっていることは悪いことなのだが、読んでいると、なぜかこの悪女に感情移入し、ついつい応援したくなる。

面白いものだ。

逆に言えば、これが小説を読む意味なのだろう。

つまり客観的に見れば、銀行のカネを横領することは悪いことなのだが、小説という形にすると、単なる善悪ではなく、違った角度からものごとを見ることができるということ。

私たちは世の中で起こっていることを単純に善悪で判断しようとする傾向が強い。

特にマスコミの論調はこれがほとんどだ。

しかし、実際には、世の中で起こっていることは単純に善悪、白黒で割り切れない事柄が多い。

多面的な見方を養うという意味で、小説を読むメリットは大きいのではないだろうか。

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