勇者は語らず/城山三郎
「まちがったのは、アメリカじゃありませんか。省エネ時代だというのに、小型車にまともに取り組もうとしなかった。下請けもふくめて、どれだけ技術や設備の改善をやり、品質管理をやったというのですか。その上、空前の高金利政策。庶民はローンに手が出なくなる。アメリカは、自分で自分の首を絞めたのです。なぜ、それを日本側はいわないのですか」
別に冬木を責めているわけでもなかったのに、冬木は苦笑すると、ぽつりといった。
「勇者は語らず、さ」
本書は本田技研をモデルにした経済小説。
戦後の自動車産業の戦いの内部を描いている。
登場人物は川奈自工の人事部長冬木と、その下請会社の社長山岡、そして川奈社長。
川奈社長のモデルは本田宗一郎だが、冬木と山岡のモデルははっきりしない。
アメリカに進出した自動車メーカーは最初はポンコツ車扱いだったが、JUST IN TIME、合理化等、様々な改善を積み重ね、やがてアメリカ車を凌駕するようになる。
ところが、その強大な力ゆえに日本車バッシングが高まる。
沈黙を守るメーカー。
その下でより大きな沈黙を強いられる下請け。
移り行く時代の流れに、登場人物とその家族は翻弄されるが、逞しく自分の信念を黙って貫こうとする。
これこそ、まさに「勇者は語らず」だ、と著者は言いたいのだろう。
その構図の中に戦後を生きぬいた日本人の縮図が垣間見える。
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