「ない」といわれたところに市場はあった!/川北義則
せっかく買おうと思ってお店に行ったのに、店員にしつこくまとわりつかれ、聞きたくもないセールストークを聞かされて、すっかり嫌になり、買うのをやめて店を出てしまった――。
そんな経験、誰でも一度や二度はあるだろう。
店に入った途端、「何かお探しですか」。
あ、これいいな、とちょっと手にとったら、即座に「よかったらご試着なさいませんか」。
これでは客は嫌になる。
「一人で静かに見させてくれよ。用があればこちらから聞くからさあ」
客はそう思っている。若者ふうにいえば、「うざい」のである。
黙って商品を見させてくれれば、買うものを。しつこく売り込むものだから、せっかく来店してくれたお客をむざむざ逃がしている。
「おもてなし」という言葉が流行語になったのは記憶に新しいが、実際にはこれと逆のことが行われていることが多い。
特に今の時代、押しつけは嫌われる。
家電量販店などに行って、商品を見ているとすぐ店員が近づいてくる。
商品を売りたいという思いがミエミエで、これを感じた途端、私などはその場を去ることにしている。
今のようなモノ余りの時代、そこだけでないと買えないというモノはそう多くはない。
家電であっても、量販店もあれば、アマゾン、楽天といったネット通販もある。
多くの選択肢があるなかで、人は選ぶ権利がある。
そしてモノを買う場合、やはり気持ちよく買いたいと思っている。
わがままと言ってしまえばそれまでなのだが、お客とはそのようなものなのである。
だから、今の店員には気持ちよく買っていただく接客が求められる。
まさに「おもてなし」が求められるのである。
不況でものが売れないから、余計に店員がしつこくなる。
それでまたお客を逃がす。
悪循環である。
要するに、接客の何たるかを履き違えているのだ。
接客とは、お客の買い物を手伝うことであって、商品やサービスを売り込むことではない。
そこにおいて重要になるのは、その人が買い物の手伝いを必要としているかどうかを一目で見抜く眼力、センスである。
客のそばに行ってあるていど説明した方がいいのか、それとも客が自分でじっくり商品を選ぶのを邪魔しない方がいいのか、
それを瞬時に見抜ける店員が優秀な店員である。
今と昔、商品の売り方も、店員に求められる能力も違ってきているということを知るべきだろう。
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