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2013年12月27日 (金)

マイナス50℃の世界/米原万里

50  どれも、現地ではあり得ないことばかりだった。
 寒くて雪が溶けないから、氷柱なんて出来ない。雪は思いっきり乾いてサラサラしているから雪合戦用の雪玉も雪だるまも作れない。現地の子どもたちは口々に言ったものだ。
「スキーや、スケートは、春先の、暖かくなったときの遊びさ」
 寒い→氷→滑る、これは私たち暖かい国に住む人間の常識だったのだ。
「寒いと氷は滑らない」
 これがサハの人たちの常識。
 そういえば、理科の時間に習ったではないか。氷そのものが滑るのではなく、氷の上を動くものと氷との摩擦で熱が生じ、その熱で氷の表面が溶けて水の膜が出来る。この水の膜が滑る原因。あまりにも寒いと、たかが摩擦熱で氷は溶けないのだ。

本書は、ロシア語同時通訳としてテレビ番組のシベリア取材に同行した著者が、現地での体験をレポートしたもの。

そこには日本人の常識を覆す驚きの日常があった。

マイナス50℃とは、どんな世界なのか?

氷は滑らない。

これには驚いた。

でも確かにそうなのである。

氷が滑るのは、氷の上に動くものと氷との間に薄い氷の膜ができているから。

ところが、マイナス50℃の世界では、氷の膜はできない。

だから、氷は滑らない。

ナルホド、である。

マイナス50℃の世界では吐く息が凍りついてみな眉毛やヒゲが白い。

家の窓は三重。

プラスチック、ナイロンなどの石油製品が寒さでまるで通用しない。

人の息やら車のガスやら家の湯気やらすべてが凍りつくためにいつも霧の状態という街。

うっかり鉄の柵をなめて舌がくっつき、舌を切り取ってどうにか命が助かった子のエピソード。

一つひとつが驚きである。

しかしヤクートの人々は、このような過酷な環境の中でも見事に適応しながらたくましく生活している。

この人間の適応力と生命力にも驚かされる。

本書は、55歳にして亡くなった米原真理氏の処女作。

惜しい人をなくしたものだ。

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